2021 Fiscal Year Annual Research Report
ポリゴンデータ解析で検証するアジア四千年の原型消失法による青銅器の造形表現
Project/Area Number |
21H00494
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
三船 温尚 富山大学, 芸術文化学部, 客員教授 (20181969)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三宮 千佳 富山大学, 学術研究部芸術文化学系, 准教授 (10454125)
廣川 守 公益財団法人泉屋博古館, 学芸課(本館), 館長 (30565586)
高浜 秀 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 客員研究員 (60000353)
長柄 毅一 富山大学, 学術研究部芸術文化学系, 教授 (60443420)
村田 聡 富山大学, 学術研究部芸術文化学系, 教授 (70219921)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 高精細3D計測調査 / ポリゴンデータ加工検査 / 抜け勾配検査 / 断面図検査 / 寸法検査 / 常温固体油脂 / 凹線の縁返り |
Outline of Annual Research Achievements |
古代中国青銅器は人類史上最も高度で複雑な技法を用いた。器体を鋳造する技術、微細な文様を鋳造する技術に分けると、現時点では後者の技法について十分な結論に至っていない。青銅器の文様形状には凸線と凹線がある。凸線は鋳型面に反転凹線を陰刻して鋳造したと理解できる。器内の金文や表面文様の凹線は鋳型面に微細な泥を反転の凸線状に盛り付けて鋳造したという説を支持する考古学者がいる。ロウなどの常温固体油脂を原型表面に塗り、その油脂に凹線を陰刻し、外型に写し取れば、鋳型面に泥凸線を盛り付けるよりも作業は容易で短時間でおこなえる。動物油脂、植物油脂、樹脂、ロウなど当時の生活の中には様々な常温固体油脂が存在したはずである。鋳型のなかで低温で溶けてなくなり鋳造には極めて有用な消失原型材を鋳造に用いなかったと断定することには無理がある。古代中国青銅器は陶製原型から複数個の鋳型を分割して抜き取る。この時には原型表面に分離剤(離型剤)として油脂を塗らなければならない。液体油脂よりも固体油脂の方が確実な離型効果がある。 青銅器の表面は多くが砥石研磨されて鋳造直後の鋳肌が残らない。中国安陽の孝民屯遺跡出土の鋳型には青銅を流していない未使用のものが多くあり、これらを微細に3D計測した。そのデータの鋳型面を反転し、その鋳型で鋳造した未研磨状態の青銅器表面を再現した。これによって文様凹線の両上端部の縁に膨らんだ稜線がつながることが判明した。鋳型面に陰刻した凹線を反転した凸線は滑らかさが無く、凹線両上部の端部の滑らかな稜線とは異なり、端部の稜線が鋳型面に陰刻した線ではなく、粘性の高い材料に箆で凹線を陰刻した時の縁のはみだしによる稜線と推測できる。粘性の高い材料で、いくつかの形状の条件を満たすものとして常温固体油脂の可能性が高まった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来の古代鋳造技術研究は肉眼観察調査が主で、極めて微細な現象や形状を客観的に科学的に図示して論証する方法ではなかった。3D計測技術は近年飛躍し、短時間で計測点間距離20マイクロメートル計測が可搬型計測器で可能になった。複数種類の計測器を青銅器所蔵の博物館へ運び込み、目的に応じた計測点間距離で、1日に多数の青銅器計測ができ、分析比較するデータが本研究者によって蓄積されている。また、中国安陽に計測器を国際輸送し日中共同研究として出土鋳型の計測データの入手ができている。 本研究が他にない特徴として、3Dポリゴンデータを専用ソフトで検査加工できる点である。近5年の国内や東アジアの研究成果を見ても、本研究のように3Dポリゴン図の観察に止まらず断面図、厚み分布図、等高線図、鋳型の抜け角度図、距離計測、角度計測、三次元形状の重ね図などで検証している研究は見当たらない。3D計測調査が古代青銅器の技法研究において貢献しうるのは、ポリゴン図の観察の他の各種加工検査である。これによって肉眼観察をはるかに超える検証が可能となり、解明へ近づくことができる。 本研究は、ポリゴンデータを最大活用し、これまでになかった次段階の新領域へ押し上げ、根拠を図示して成果を出している点で、おおむね順調である。学術的成果としては、新規的成果がありおおむね順調以上の進捗状況と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
ポリゴン図を拡大して観察すると、消失原型を用いなければ難しい。超絶技巧と微細なものを見る視力を持つ工人が長時間かけて作業すれば、できないことはないが、青銅器の全体の出来具合は作業速度が速く、文様が乱れるなどやや粗い。そういう青銅器の一部に超絶技巧で作業をするというのはアンバランスである。 常温固体油脂の鋳型内で低温で溶ける消失原型の特徴の数々をポリゴンデータで図化し、カラー図版を多用して論文を作成する予定である。
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