2021 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本の「老い」ゆく場と人びとの生をめぐる歴史研究―療養所と寄せ場から考える―
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21H00564
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
石居 人也 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (20635776)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿部 安成 滋賀大学, 経済学部, 教授 (10272775)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 日本史 / 近現代史 / ハンセン病 / 療養所 / 寄せ場 / 生 / 伝染病/感染症 / 老い |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の1年目である2021年度は、COVID-19の感染拡大が収束せず、研究計画もそれに応じた軌道修正を余儀なくされた。本研究における重要な「現場」である、ハンセン病の療養所と寄せ場には、ごくかぎられた機会にしか足を運ぶことができなかった。あらかじめ覚悟し、想定もしていた事態とはいえ、「現場」の状況は刻々と変化しており、臨機応変に調査・研究を進めるべく、模索を続けた1年だった。具体的には、既撮影の歴史資料(以下、史料)や文献などを積極的に活用し、また利用制限が緩和された沖縄県立図書館・国立歴史民俗博物館・国立ハンセン病資料館・国立国会図書館などでの調査や、オンラインミーティングツールを用いた打ちあわせ・研究会を実施しながら、企画展示の準備、論集の編集、目録の作成などを進め、その成果の一端を発表した。 おもな成果として、以下の3点を挙げることができる。 1点目は、国立歴史民俗博物館の企画展示「学びの歴史像―わたりあう近代―」に参画し、大島青松園社会交流会館・沖縄愛楽園交流会館の協力を得て、ハンセン病の療養所でかさねてきた調査・研究の成果を、展示というかたちで広く発信したことである。 2点目は、沖縄愛楽園交流会館で定期的に研究会を開催しながら刊行を目指してきた論集に関して、オンラインでの意見交換をかさねたことである。COVID-19の感染拡大がもたらした社会の変化を前に、ハンセン病をめぐって、いま、何を、どのように、問うべきなのかについての議論を深めた。これにより、論集の内容にも軌道修正が必要になったが、より質の高い作品の完成を目指して、作業を続けている。 3点目は、国立療養所大島青松園の文化会館旧蔵書の目録を、既撮影の画像を用いて進めたことである。現地調査は叶わなかったが、規制が解除されるときに備えて、可能なかぎりの準備を進めており、目録の完成にむけて、前進を続けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、COVID-19の感染拡大が収束せず、ハンセン病の療養所や寄せ場へは、先方の対策方針とのかねあいなどから、あまり足を運べなかった。そこで、いま、できること、すべきこと、を探りながら、以下のとおり研究を推進した。 A.ハンセン病 国立療養所大島青松園では、COVID-19感染拡大防止のため、年度を通じて渡島(入園)が規制され、国立療養所沖縄愛楽園でも、同様の観点から、沖縄県が緊急事態宣言または蔓延防止等重点措置の対象となっている期間の入園が規制された。そうしたなか、研究代表者が展示プロジェクト委員として携わった、国立歴史民俗博物館の企画展示「学びの歴史像―わたりあう近代―」(2021年10月~12月)に際しては、大島青松園社会交流会館と沖縄愛楽園交流会館が所蔵する史料の借用・返却のための訪問を両園に認めていただき、調査・研究の成果を展示(第4章「「文明」に巣くう病」を担当)というかたちで、広く発信できた。大島の文化会館旧蔵書の目録作成は、既撮影の画像データをもとに作業を進め、規制解除後の現地調査に備えている。沖縄で進めている論集の編集は、内容のみなおしも含めた議論をオンラインで続けており、青木恵哉や沖縄愛楽園の草創期について考えるスタンダードとなる書を目指して、丁寧かつ慎重に作業を進めている。 B.寄せ場 現下の情勢に鑑みて、現地調査は控えざるを得ないため、予備調査時の撮影画像にもとづく情報の整理や調査計画のデザイン、研究文献を用いた情報の収集・蓄積を進めている。 C.その他 史料やフィールドワークを通じて、東京の各地域の成りたちを考える書籍(『みる・よむ・あるく東京の歴史』)で、研究代表者が国立療養所多磨全生園をはじめとした医療・療養施設が集まる東村山・清瀬市域を扱う節を担当し、調査・研究の成果を発表した。 以上より、研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度に得られた成果をもとにして、以下の調査・研究を実施する。 A.ハンセン病療養所・療養者(各項末尾のカッコ内は担当者をあらわす) 【国立療養所大島青松園】①大島の療養者の自治組織には、90年におよぶ歴史のなかで、療養所外からもたらされた2万点におよぶ蔵書がある。渡島規制の解除を待って、その目録の完成をいそぐ。②療養者の減少と高齢化が続く療養所における「老い」を、療養者個々や「コミュニティ」(自治組織・サークルなど)に着目して考える(石居中心)。【国立療養所長島愛生園】③療養者は、療養所の枠を超えた「病友」同士の交流をもった。その媒体となった書簡のうち、大島から届いた一群が、長島に残されている。その調査と分析をとおして、療養者の意識にせまる(阿部中心)。【国立療養所沖縄愛楽園】④徳島県出身で、大島での療養経験がある青木恵哉は、1920年代、療養所のなかった沖縄へとわたり、のちの沖縄愛楽園につながる病者の「安住の地」を設けた。青木・愛楽園を中心に沖縄のハンセン病をめぐる歴史研究の現状をサーベイしたうえで、青木の生や愛楽園の草創期を問いなおす書籍を刊行する(阿部・石居)。 B.寄せ場・寄せ場生活者 【山谷】⑤日本三大寄せ場のひとつとされる山谷に、1990年に設立されたボランティアサークル、ふるさとの会(現、NPO法人自立支援センターふるさとの会)に残る史料の調査・整理を進める(石居中心)。 C.両者を通じて ⑥書籍・映像・画像・写真・展示などで、療養所・寄せ場や療養者・寄せ場生活者の「老い」ゆく生がどのように表象されているのかを分析するとともに、その作者や企画者と議論する機会を設け、その成果を公開する。⑦療養所や寄せ場の将来をみすえ、そこに生きる人びとのおもいとむきあいつつ、史料を適切に保存・活用する手だてを講ずる(阿部・石居)。
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Research Products
(2 results)