2023 Fiscal Year Annual Research Report
Analysis of the technical knowledge of the Jomon people deduced from the material plants and weaving techniques of mats left as pottery impressions
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21H00591
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
佐々木 由香 金沢大学, 古代文明・文化資源学研究所, 特任准教授 (70642057)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
能城 修一 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員(客員研究員) (30343792)
山本 華 同志社大学, 研究開発推進機構, 嘱託研究員 (70899179)
鈴木 三男 東北大学, 学術資源研究公開センター, 名誉教授 (80111483)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 編組製品 / 繊維製品 / 植物利用 / 縄文時代 / 技術知 / 土器敷物圧痕 / レプリカ法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、出土編組・繊維製品の素材植物種を同定するための新たな同定方法を開発し、出土製品だけでなく土器敷物圧痕からも技法や素材植物を明らかにする。次に挙げる4点の調査・作業内容を主体として行った。(1)出土編組製品と土器敷物圧痕の双方が確認された遺跡を対象として、素材植物種の同定、表面形態の観察を行い、レプリカ法で土器敷物圧痕を採取して比較する。(2)素材植物が不明または未検討の出土編組・繊維製品の素材植物種の同定を試みる。(3)編組製品の製作に関わる植物利用の聞き取りや素材・加工品の収集を行い、現生加工植物標本を作製する。(4)同定できた素材植物を用いて復元製作を行って、編組製品や繊維製品製作の背景にある植物利用の技術知を解明する。2023年度は、以下を実施した。 (1)青森県中居遺跡出土の縄文時代の編組・繊維製品を総覧し、重要文化財指定品の素材植物種を再同定した。同遺跡および周辺遺跡の土器底部圧痕を悉皆調査し、特徴的な個体の技法をレプリカ法で観察した。上記の成果を是川縄文博物館の研究紀要にまとめ、共同研究成果を博物館の特別展示とすべく準備を行った。 (2)富山県桜町遺跡から出土した縄の樹脂包埋切片作製を行って同定した。さらに青森県石橋遺跡、茨城県風返稲荷山古墳、千葉県東中山台遺跡(67)の出土編組製品と繊維製品の技法観察および素材を採取し、デジタルマイクロスコープやX線CT、樹脂包埋切片法で素材植物種を同定し報告した。 (3)現代編組製品の素材調査を行った。徳島県立博物館に所蔵され、コウゾの樹皮繊維と考えられていた木綿(ゆう)の繊維素材をアサと同定した。ラオスで前年度に蒐集した編組製品の素材を樹脂包埋切片法により調査した。 (4)岩手県御所野縄文博物館との共同研究でシダ縄製作の復元実験を行った。鹿児島県姶良市前田遺跡出土の編組製品の素材採取を行い、3個体の復元製作を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
概要報告した(1)から(4)までの4項目の研究実績に加えて以下の事象が明らかになった。 (1)これまで縄文時代の1遺跡でしか報告されていなかった叩き割り技法によって製作された編組製品が、出土編組製品、土器敷物圧痕双方で確認された。日本列島だけでなく中国大陸の新石器時代にも確認され、時期も縄文時代草創期から晩期まで事例を確認でき、その成果を論文化した。構造物にも使用可能な敷物製作技法として技術的な側面から位置付けた。 (2-1)土器に付着したごく微量の炭化編組製品や繊維製品、炭化米塊に付着した編組製品の素材植物種を同定し、素材の加工方法を明らかにした。その結果から、土器に用いられた用途や炭化米に付随した用途を推定し、口頭発表もしくは論文化した。従来炭化した編組製品はほとんど検討されておらず、新たな研究分野を開拓できた。(2-2)土器敷物圧痕が圧痕として残存したタイミングが既往の土器製作時だけでなく、乾燥中の再設置時にもあるという事例を提示し、論文化した。 (3-1)ラオス国立大学との共同研究で、編組製品の素材植物の採取や製作過程、製品段階の資料を得ることができ、素材入手と加工過程、器種と用途の関係について聞き取り調査を行った。(3-2)縄文のシダ縄復元製作のために複数の条件で加工したワラビとリョウメンシダについて、組織構造の違いを調べるため樹脂包埋切片作製を進め、縄製作には採取季節の選択と採取してからの処理・加工方法が重要な点を明らかにし、口頭発表を行った。 本研究に係る新たな植物考古学の成果は、テレビなどのメディアでも取り上げられたほか、研究代表者の尖石縄文文化賞受賞に繋がり、岩波ジュニア新書などで広く一般向けに公開した。こうした面から当初の研究計画より、地域的にも時期的にも幅広く研究が広がり、かつこれまで不明瞭であった分野が開拓できたため、当初の計画以上に進展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
申請段階より想定以上の新出の出土編組製品から素材植物同定用の試料が得られ、また多くの土器敷物圧痕からもレプリカを採取できた。今後、現生植物標本を用いて粘土に圧痕を形成し、出土編組製品と敷物圧痕土器に観察される特徴と現生標本との比較を行い、同定のポイントを探る。 既存の遺跡出土試料については一通り同定作業を終えたが、これまでに知られていない形態をしていて同定に至らない素材が若干残っている。今後、候補となり得る現生植物の部位を採取して比較検討することにより、出土遺物の素材植物同定を推進する。 炭化した製品については、繊維製品についても同定方法を開拓し、未解明であった炭化した繊維製品の素材植物種の同定を試みる。 現生の編組製品の聞き取り調査では、ラオスにてこれまで北部と南部を調査したため、中部についても聞き取り調査と現代の編組製品の製作に関わる資料の蒐集を行い、地域性と器種、素材植物、製作技術の対応関係についてモデルケースを示す予定である。
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