2021 Fiscal Year Annual Research Report
蛍光X線分析装置を中心とした黒曜石原産地推定法の改良・体系化とその可変的適用
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21H00599
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
池谷 信之 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 特任教授 (80596106)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 由克 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (10737745)
保坂 康夫 身延山大学, 仏教学部, 講師 (50810785)
金井 拓人 帝京大学, 付置研究所, 助教 (60779081)
堤 隆 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (70593953)
隅田 祥光 長崎大学, 教育学部, 准教授 (80413920)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 黒曜石原産地推定 / エネルギー分散型蛍光X線分析装置 / ポータブル蛍光X線分析装置 / 可変的・総合的運用 / 原産地遺跡 / オブシディアン・ラッシュ / 全点分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
分担者と連携をとりながら、重点項目を中心に研究を推進した。詳細は以下のとおり。①.黒曜石の全岩分析とデータベース公表:波長分散型蛍光X線分析装置(WDXRF)を用いて、列島内原産地の黒曜石の化学組成を分析し、その数値・産状・立地等をHP上で公表する作業を継続した。②.携帯型(p-XRF)でもエネルギー分散型(EDXRF)と遜色のない精度での分析が可能なことが明らかになったため、統計的処理を用いてCOLSのEDXRFで得られた原産地判別図をp-XRF用に変換した。③.EDXRFによる定量分析法の確立:標準資料や主要原産地のガラスビードを測定して得られる検量線の比較検討の結果、「定量値比」での原産地推定が可能となった。④.晶子形態による原産地推定の復活:晶子形態法による原産地推定法は、手続きの煩雑さなどのために、近年はほとんど実施されなくなっていた。しかしEDXRFなどで対象を限定した上での判別にはなお有効である。EDXRFの原産地推定では同じ和田鷹山群に帰属して分離できない鷹山・東餅屋・鷹山・和田峠西の各原産地は、昨年度に試行した晶子形態の顕微鏡観察によって判別可能であることが明らかになった。これは原産地近くに営まれた遺跡の詳細な原石獲得行動を解明するために極めて有効な方法であり、今後、他の判別群への適用も期待される。⑤.縄文時代草創期の黒曜石流通の研究:岡谷市丸山遺跡の出土遺物から草創期の石器群60数点を抽出して原産地推定を実施した。遺跡直近の原産地である諏訪星ヶ台産が主体を占めていたが、神津島産3点も含まれており、他の石材の鑑定結果も含めると、この集団の主要な遊動範囲は北信ではなく静岡東部方面であることが明らかとなった。⑥.縄文時代前期後半の黒曜石流通の研究:p-XRFを用いて甲府盆地内の4遺跡約6000点の原産地推定を実施し、すべての石器の属性を記載・検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
①可搬型蛍光X線分析装置(p-XRF)による原産地推定が実用化できたため、分析時間が約2分と短い特性を利用して、縄文時代前期後半の黒曜石約6000点を分析することができ、その結果、信州原産地と消費地である関東地方を中継する甲府盆地内の遺跡の流通上の役割をほぼ解明することができた。 ②これまで国内のエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDXRF)を用いた原産地推定では、石器の凹凸や風化などの影響を避けるため、蛍光X線強度が用いられ、定量値(重量%)による原産地推定は実現できていなかった。しかし産総研の標準資料や主要原産地のガラスビードを測定して得られる検量線の比較検討の結果、「定量値比」での原産地推定が可能となった。この手続きと意義を述べた論稿はすでに投稿・受理されている。 ③化学組成が近似するためEDXRFなどの原産地推定では細かい産出地を区分できない「和田鷹山判別群」が、晶子形態法によって区分できることが確実になり、さらに他の原産地(諏訪星ヶ台・蓼科冷山など)への適用の展望が開けた。
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Strategy for Future Research Activity |
①.黒曜石の全岩分析とデータベース公表:WDXRFを用いて、列島内原産地の黒曜石の化学組成・岩石学的産状・立地等をHP上で公表する作業を継続する。今年度は「国際黒曜石会議遠軽2023」に向けて北海道内の原産地を中心として測定するとともに、昨年度に分析を実施した伊豆箱根の黒曜石・流紋岩について論文化する。②.p-XRFによる原産地推定法の運用:今年度は長野・山梨県内に存在する4つのp-XRFを共通する判別図(オリジナルは黒曜石研究センターのEDXRFによる)用いた運用をめざす。③.EDXRFによる定量分析法の確立:昨年度の研究により「定量値比」での原産地推定が理論的に可能となった。この推定法はこれまでの明治大学黒耀石研究センターのEDXRF強度を用いた分析法とは異なるため、中部・関東地方の黒曜石原石を対象として、検量線を用いた定量値(重量%)での測定を進め、新たな判別図の作成をめざす。④.晶子形態による原産地推定の復活:昨年度の和田鷹山群に属する鷹山・東餅屋・丁字御領・和田峠西の原石の顕微鏡観察により、EDXRFでは分離できない原産地でも、晶子形態法によって判別できることが示された。さらに今年度は遺跡出土石器への適用を通じて原産地推定法としての課題を洗い出し、実用化を進める。⑤.縄文時代草創期の黒曜石流通の研究:岡谷市丸山遺跡については来年度の調査研究報告書刊行をめざして、草創期石器群の実測作業を進める。⑥.縄文時代前期後半の黒曜石流通の研究:昨年度、甲府盆地内の4遺跡6000点の黒曜石原産地推定を実施し、その流通をほぼ明らかにできたので、今年度は関東に至る経路上にある山梨県内の山間地の遺跡を対象にした分析を行なう。
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