2021 Fiscal Year Annual Research Report
Physical processes involved in the formation and fluctuation of the baiu front
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21H00626
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
植田 宏昭 筑波大学, 生命環境系, 教授 (70344869)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
本田 明治 新潟大学, 自然科学系, 教授 (20371742)
高谷 康太郎 京都産業大学, 理学部, 教授 (60392966)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 令和2年7月豪雨 / インド洋 / ラニーニャ / 太平洋高気圧 / 梅雨前線 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年7月3日から31日にかけて発生した「令和2年7月豪雨」を引き起こした梅雨・メイユ前線の停滞のメカニズムを明らかにした。主な要因は、日本の南海上で強化された太平洋高気圧の西側を、暖かく湿った風が北上したことであることを特定し、このような高気圧性循環の強化・維持において、インド洋の昇温による遠隔影響が重要な役割を果たしていたことを実験的に明らかにした。今回の成果は、インド洋を介した東アジアにおける梅雨期から盛夏期にかけての季節予報の精度向上に寄与するだけでなく、それらを利活用することにより防災・減災に貢献することが期待される。なお研究成果は、Ueda et al.(SOLA, 2021)として論文化するとともに、筑波大学広報よりプレスリリースを行なった。 また、2019/20年の東アジアにおける暖冬発生について、熱帯大気-海洋からの影響に着目し、観測値を反映させた再解析データと数値モデルを用いて、その直接的な要因を特定した。日本付近に出現した高気圧性の偏差は、海洋大陸において対流活動が平年よりも抑制されたことで偏西風が蛇行した結果であることを明らかにした。また、東アジアの暖冬をもたらした海洋大陸領域における対流活動の抑制は、インド洋西部の昇温に対応する「正のインド洋ダイポールモード現象」と中央太平洋の昇温に対応する「エルニーニョモドキ現象」の組み合わせ効果から説明できることも明らかにした。研究成果は、Kuramochi et al.(SOLA, 2021)として論文化するとともに、筑波大学と気象研究所の共同プレスリリース「2019/20年の記録的暖冬はインド洋・太平洋の複合効果が原因だった」を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年8月に発生した「令和3年8月の大雨」の要因について、寒冷渦と熱帯起源のテレコネクションの観点から要因の特定を行なっている。2021年8月の天候は関東以西において低温・多雨の傾向となり、とりわけ西日本や関東甲信地域では、同月の総降水量が1946年の統計開始以降、最多を記録した。特に8月11日から19日にかけては前線性の大雨が発生したことが気象庁より報告されており、本研究課題ではその期間を含む多雨期間として、8月3日から25日までを集中解析対象とし、診断的研究を実施中である。2021年8月の熱帯から亜熱帯のインド洋・太平洋の循環偏差は、令和2年7月豪雨(Ueda et al. 2021)時と似たような傾向を示していることを特定している。その一方、中高緯度の上層寒気(以後、寒冷渦 [Cold Vortex]、切離低気圧 [Cut Off Low]、UCL [Upper Cold Low]を含む「寒冷低気圧」)の寄与も確認している。これらの状況をふまえ、本研究課題では熱帯と中高緯度との相互作用の視点から、豪雨が引き起こされた要因の特定を行なっている。なお、研究成果の進捗は、京都大学防災研究所一般研究集会2021K-05 変容する気候系における気象・気候災害の予測とその発現過程の理解「異常気象研究会2021・第9回観測システム・予測可能性研究連絡会」にて発表し、寒冷渦の特定手法と観測計画について検討中である。
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Strategy for Future Research Activity |
「令和3年8月の大雨」の要因の特定をさらに進める予定であり、熱帯の海面水温、非断熱加熱の計算、北極寒気の診断を実施するとともに、高渦位の注入に伴う対流圏下層付近の循環変化について、PV-inversion法の援用による数値実験を行う準備を進めている。 また、対流熱源の位置の差異による冬季北西太平洋における2種類のテレコネクションパターンの力学を解明するために、Takaya and Nakamura(2001)の波活動度フラックスの計算を行い、定常ロスビー波の伝播状況を診断するとともに、Sardeshmukh and Hoskins (1988)をベースに、熱帯対流活動と循環偏差パターンの励起や維持の関係を評価するために渦度収支解析を行う予定である。また、中国大陸から日本にかけての梅雨前線活動の包括的な理解に向けて、梅雨・メイユ前線の総観規模スケールの気候変動調査を検討している。 梅雨前線を規定するオホーツク海高気圧については、東南アジアから日本に伝播するテレコネクション(SAJパターン)発現の観点から、全季節を通した変動要因の特定が必要であり、エルニーニョ年・ラニーニャ年におけるオホーツク海の大気海洋結合研究に関するfeasibility研究を実施する予定である。
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