2022 Fiscal Year Annual Research Report
Interactive Dynamism between Environment/Animals/Men in the Mountain Highlands: Focusing on the Central Andes
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21H00647
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The Open University of Japan |
Principal Investigator |
稲村 哲也 放送大学, 教養学部, 客員教授 (00203208)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鶴見 英成 放送大学, 教養学部, 准教授 (00529068)
木村 友美 大阪大学, 大学院人間科学研究科, 講師 (00637077)
山本 太郎 長崎大学, 熱帯医学研究所, 教授 (70304970)
苅谷 愛彦 専修大学, 文学部, 教授 (70323433)
鳥塚 あゆち 関西外国語大学, 外国語学部, 准教授 (70779818)
山本 紀夫 国立民族学博物館, その他部局等, 名誉教授 (90111088)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | アンデス / ラクダ科動物 / アルパカ / 毛色 / 牧民社会 / ヒマラヤ / ラウテ / 社会変容 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、山岳高所をフィールドとして、通時的課題(家畜化と文明形成、征服のインパクト)と現代的課題(チャクの復興、先住民社会の変容)を統合し、人類史や民族誌の観点から「社会レジリエンス」を究明することを目的としている。2022年度の研究としては、前年度末に刊行した『レジリエンス人類史』(京都大学学術出版会)で提示した「レジリエンス史観」を念頭におき、新大陸(アンデス)と旧大陸(ヒマラヤ・チベット、およびモンゴル)の比較を含む牧民社会における、環境=動物=人の相互作用を中心に研究を進めた。現地調査を再開し、民族誌研究を進めるとともに、文献により、民族誌(現代的課題)と考古学(通時的課題)の接合を目標にして研究を進めた。 現地調査としては、代表者はペルー・アンデスの長年の調査地プイカでの現地調査を再開した。自動車道路の開通により、プイカの中心地区に大きな変化(都市化など)があり、高原部の牧民社会にも大きな変容が起こった。牧畜システムの大きな変化は、直近の20年ほどの間に、行政・NPOの指導による近代的畜舎の導入が浸透したことである。また、従来は、拡大家族による一定程度の共有地とそこでのミクロな移動のシステムがあったが、核家族化と放牧地の細分化が進行していた。社会的な変容としては、牧民のあいだにプロテスタント系キリスト教の浸透が見られ、従来継承してきた祭りへの参加がほぼ消滅したことが大きな変化であった。それによって、強い相互依存関係にあった、農民との関係が薄れ、外部社会とのより直接的な接触・交流が進行していた。 ヒマラヤでは、サルだけを狩猟し、木地師として木工製品を製作して農耕民との交易によって農産物を得る生業を維持し、遊動生活を継続しているラウテ民族の現地調査を再開した。ここでは、行政による現金支給援助やNPOによる「生活指導」活動による変化が見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度には、翌年への繰り越しによるものを含め、研究代表者はペルーとネパールで現地調査を実施し、新たな民族誌的知見を得た。ペルーでは、長年の調査実績があるプイカ地区(アレキーパ県最北部)とその周辺地域を再訪した。以前は徒歩や馬でしか入ることができなかった調査地に車で入ることができた。この道路の開通に伴い、プイカには大きな変容が起こっていた。その内容については研究実績の概要で述べた。 研究分担者の鳥塚は、ペルーのクスコ県の牧民共同体ワイリャワイリャと、クスコ市・アレキパ市の繊維企業を対象に現地調査を実施した。全体として、これまでは、市場における染色織物製品の需要の影響で白色毛一辺倒の傾向があったが、近年は有色毛も再評価する傾向への変化が確認できた。デスクワークとしては、リャマ・アルパカの出産・繁殖・育児放棄等の事例から、人間・家畜・自然の連鎖する関係性と、その中で生成されるアンデス牧畜文化について考察した。 鶴見は国内において、アンデス文明の基礎的研究として神殿建築の成立と変遷に関する分析を進め、北部ペルー全体における編年研究の文脈において、また文明形成期における資源利用に関わる現象として論考を発表した。山本太郎は、ヒトの高地適応とそれがもたらす疾病についての研究を実施し、チベット文化圏での調査をふまえて、アンデス高地民族を対象とした調査研究のため、ペルーの国立サンティアゴ・アントゥネス・デ・マヨロ大学(UNASAM)と研究協力における連携を進めた。 山本紀夫は、これまでの長年の研究蓄積を基に、アンデスとヒマラヤを比較し、民族植物学に関する研究を進めた。また、木村は、アンデス・ヒマラヤとの比較を念頭に、インドネシア・パプア州(ニューギニア島)における主食の変化を中心に、グローバル・ヘルスの研究を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
(2023年度に実施した繰り越し部分を含めて)2022年度の現地調査の結果、アンデスの牧民社会で大きな社会変容が生じていることがわかった。そこで、今後の研究の重点課題として、新たな現地調査を進め、社会変容の具体的な内容とその背景について明らかにするとともに、これまでの研究実績を踏まえ、変化の文脈と「社会レジリエンス」にかかわる意義について考察していくことが重要である。 また、アンデスにおいて、アルパカ・リャマの食肉としての利用にも大きな変化(観光・健康志向などの影響により、従来ラクダ科動物の肉を蔑視していた都市住民の間にブームが起こりつつあることなど)が起こっていることが分かった。また、野生動物ビクーニャの合理的利用としての集団猟「チャク」(殺さない狩猟:毛を刈って生きたまま解放)の現地調査も重要である。 全体として、(乳利用のない)アンデス牧畜の特性として、「毛の利用」と「肉の利用」は特に重要なテーマである。さらに、チャクを含め、毛と肉の利用はドメスティケーションの契機としても重要であり、これらのテーマの研究は、考古学(通時的課題)と民族誌(現代的課題)の統合にとってたいへん重要であり、今後の研究の中心にすえていく。 アンデスとの比較として、ヒマラヤでの研究も今後は重点的に推進していく。遊動生活を続けているラウテ民族は、現金支給の援助により、木工製品の製作意欲の減退、遊動地域の変更・縮小など、こちらも大きな変容がリアルタイムで進行しているため、現地調査の継続は重要である。また、ヒマラヤにおいて、ヤクなどの移牧(規則的な上下の季節移動)を行っている牧民社会での現地調査も、プロジェクトの後半には実施したい。 これらの民族誌的研究の比較分析、また、考古学的知見との接合を目指した分析と考察も重要であり、文献研究を含め、今後も継続してゆく必要がある。
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