2021 Fiscal Year Annual Research Report
Comparative sociological study of global justice related to collective needs and rights
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21H00782
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
阿部 利洋 大谷大学, 社会学部, 教授 (90410969)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松田 素二 総合地球環境学研究所, 研究部, 特任教授 (50173852)
坂部 晶子 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (60433372)
クロス 京子 京都産業大学, 国際関係学部, 教授 (40734645)
松浦 雄介 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (10363516)
近森 高明 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (10411125)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | グローバルな正義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、紛争後、民主化後、ポストコロニアル、改革期の社会主義、テロとの闘いの前景化といった文脈を有する社会の事例を取り上げ、「グローバルな正義の制度的実践が、どのような社会的影響を及ぼすか」という問いを課題として設定している。とりわけ集合的なニーズと権利が関わる制度・規範に焦点をあて、①「普遍主義的なルールや意味が公式の目的とは異なる形で社会に及ぼす影響」、その下で②「正義の制度的実践が社会変容に対して果たす機能」、その過程に生じる③「社会内部における制度的実践に伴う連鎖的反応」の観点から各調査地で具体的なデータを収集する。これらを機能・集合・期待・伝播といった社会学的な分析概念を用いて比較検討し、関連分野の認識とは異なる理論モデルを提出することを目的とする。 2021年度計画では、班員それぞれが対象とするフィールド(南アフリカ、ケニア、フィリピン、中国、フランス、イギリス)へ調査におもむき、共同研究に関連する基礎的な情報収集を開始する予定であったが、新型コロナ感染症の世界的な拡大は当該年度を通じて収束せず、現地調査については計画を修正する必要が生じた。 他方で、6月と12月には国内研究会を実施し、理論的な分析枠組みの共有、基本概念に対する異なる分野(社会学、国際政治学、人類学、国際関係論)間の共通了解の醸成、外部講師による情報提供と意見交換を進めることができた。とりわけ、グローバルな正義をテーマとする網羅的な先行研究レビューに十分な時間をさくこととなり、理論的考察に関するアウトプットはスムーズに行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度は、研究会(2回)での方法論・理論的視座に関する理解の共有、およびフィールドにおける実態調査(2週間、1回)を主な活動内容として計画したが、上記の通り、新型コロナ感染症拡大により現地調査は困難となった。班員はオンラインでのやり取りを通じて感染症収束後の計画について現地協力者と情報共有を図ったものの、調査対象地においても困難と混乱が継続しており、この計画に関しては延期せざるを得なくなった。 他方で、理論的課題の明確化および関連研究のフォローについては十分に時間を割くことができ、班員各自の研究のアウトプットは順調であった。 6月の研究会では、①グローバルジャスティス(GJ)という枠組み設定の背景(どのように提起され、どのように一般化してきたか)、②法学・政治哲学的なGJへのアプローチ(規範的基礎付け)とそれに基づく政策提言、③地域研究ベースの政治学と人類学、社会学的なGJへのアプローチ、④人類学あるいは文化研究における「グローバルな価値基準とローカルのそれとの相克、混淆、交渉、分離・併存」の議論、について網羅的な先行研究レビューを行い、本研究会の理論的方向性について議論した。 12月の研究会では、2019年に編者として『グローバル化する正義の人類学』を公刊した細谷広美氏から「グローバル化する正義・人権と先住民:ペルーの事例との関係より」という報告をいただき、当該テーマと先住民の関係を中心に、移行期正義に関する認識を深めた。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の時点では新型コロナ感染症問題の収束が十分に見通せず、調査対象地における実証データの収集について、新たな工夫が要請されることとなった。従来想定されていた状況は、調査者の社会(日本)と調査対象地のいずれかに問題が生じた際に、情報収集に関する代替手段を講じるというものであったからである。そのため、渡航が困難である場合は、調査対象地における混乱の解消とともに部分的な情報収集を依頼する可能性も検討している。 一方で2022年度に渡航再開となった場合、班員は以下の課題を遂行する計画である。 阿部は、南アフリカにおいて、有用植物利用の知的所有権に関するグローバルな正義の制度が、先住民族コイサンと他の人種・民族集団との関係に及ぼす影響を調査する。松田は、国際刑事裁判所(ICC)に対するアフリカ側からの批判の中心にあるケニアとウガンダの事例を取り上げつつ、ICCによる働きかけが、両社会に及ぼした影響を調査する。坂部は、現代中国における女性NGOが、市場経済化のなかで、政府系組織とは異なる役割をどのように果たしているか、という点について調査する。クロスは、抑圧的政権や内戦下の人権侵害被害者に対する「償われる権利」実現を促すグローバルな文脈の変遷を把握するとともに、この政策が近年のフィリピン社会および人々の正義概念にいかなる影響を与えたのかを考察する。松浦はマクロン政権発足後のフランスによる、旧植民地諸国への文化財返還政策を取り上げ、この動きが「宗主国―植民地」のポストコロニアルな関係、およびユネスコの施策に及ぼす影響について検討する。近森は、ロンドン大学を拠点とし、シリアやパレスチナでの人権侵害調査を実施してきたフォレンジック・アーキテクチャ・グループの活動に焦点をあて、その手法が、グローバルな正義追求を目的とする諸制度に及ぼしつつある影響を考察する。
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