2021 Fiscal Year Annual Research Report
Denmark as a innovative welfare state
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21H00797
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
菅沼 隆 立教大学, 経済学部, 教授 (00226416)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
尾崎 俊哉 立教大学, 経営学部, 教授 (20409543)
倉地 真太郎 明治大学, 政治経済学部, 専任講師 (60781078)
吉武 信彦 高崎経済大学, 地域政策学部, 教授 (80240266)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | イノベーション / 福祉国家 / ナショナル・イノベーション・システム / 学習経済 / 投資財団 / ダイバーシティ / 社会的投資 / フレキシキュリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
デンマークと日本の合弁企業の日本人役員(2社)、労働市場・職業斡旋庁職員、コペンハーゲンビジネススクールの研究者、デンマーク教育研究者(日本人)に聞き取り調査を行った。それぞれの聞き取りから、フラットな組織と柔軟な研究開発体制、地道な基礎データの収集、フレキシキュリティの頑強性、デンマーク独自の投資財団の役割、柔軟で充実した学習社会の実態を具体的に確認できた。 研究会では、文献収集を行い、重要文献を輪読し、問題意識を深め、研究方法を具体化した。イノベーションにおける政府の役割についてはM.マッツカート論文を、ナショナル・イノベーション・システム(NIS)関してはC.フリーマンの論文を吟味した。続いてデンマークのNIS論を展開したB.ルンバルの論文を輪読した。「学習経済」、労働市場の構造や職場における経験知、透明な政治体制などがデンマークのイノベーションシステムの特徴であることを確認することができた。デンマークの新聞データーベースおよび国会議事録を検索しイノベーション政策の変遷についても確認することができた。 また、デンマークに限定せず、広くイノベーション現象をとらえるために、OECDやアメリカのイノベーション概念について歴史的な変遷と、現在のイノベーション概念について確認をした。例えば、最新のOECDの「オスロマニュアル」で示されたイノベーションの概念とナショナル・イノベーション・システムの概念の相違を確認し、経営思想、教育システム、労働市場システム、福祉国家の生活保障システム、環境政策を含めてデンマークのイノベーションシステムを把握することの重要性を確認することができた。 初年度であるが、研究の途上で得た知見をもとに、メンバーは雑誌、紀要にデンマークのイノベーションシステムの特質について論考を発表してきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画した官庁等に対する聞き取り調査は、コロナ禍で十分に実施することができなかった。だが、デンマーク雇用政策の担当者、デンマーク企業と提携した日本企業の役員、デンマーク投資財団の研究者などに聞き取り調査を行い、デンマークの企業行動の特性について直接情報を得ることができた。また、重要文献を輪読し、ルンバルのデンマークのナショナル・イノベーション・システム研究を多面的に検討することができたことは、今後の研究の重要な土台を築くことができた。さらに、新聞データーベースおよび国会議事録の分析を通じて、デンマークにおけるイノベーションの概念と政策の変遷を辿ることができ、今後の現地調査に必要な知見を得ることができた。デンマークの投資財団については専門家に直接聞き取りをすることを通じて、デンマーク独特の企業ガバナンスの仕組みを知ることができ、また、重要な文献も入手することができた。デンマークの教育システムがイノベーションと深く結びついていることをルンバルや豊泉氏の研究から確認することができ、今後、教育システムとイノベーションとの具体的関連を明らかにする必要があることが明確となった。さらに、OECDおよび米国のイノベーションの概念史、資本主義の多様性論(VOC)の近年の研究動向などもサーベイすることを通じて、デンマークのイノベーションが普遍主義的な北欧福祉国家を地盤として展開されていることも明らかとなった。研究の一端をメンバーが関係する雑誌・紀要・講演会などで公表し、「イノベーティブ福祉国家」概念の重要性と普及・啓蒙に努めてきた。なお、2022年度の企画になるが、北ヨーロッパ学会2022年研究大会で研究報告を予定している。また、一般向けの連続公開セミナー「イノベーティブな社会デンマークを知る」(立教大学社会福祉研究所主催)を開催し、研究の成果を一般に公開することになっている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、デンマーク現地調査を通じて、ファクトの収集に努める予定である。その際、デンマークのナショナル・イノベーション・システムを具体的に把握することに努める。調査先として、デンマーク政府の財務省、経済産業省、教育省、環境省、経営者団体、投資財団、労働組合、注目すべき企業を予定している。財務省では、税制・財政とイノベーションとの関係、教育省では近年の教育改革におけるイノベーション人材の育成、環境省では環境政策からみたイノベーション政策の位置づけ、経営者団体では、企業間関係とイノベーション、投資財団では投資と経営ガバナンスの関係、労働組合では従業員主導のイノベーションemployee driven innovationの具体的取り組み、個別企業では経営目標をどのように設定しているのか、について聞き取り調査を行う。また、オーフス大学、オルボー大学のイノベーション研究者と研究交流を行う予定である。現地調査前には、研究会において質問票の吟味を行う。現地調査後は、調査結果の整理と分析を行う。現地調査では、デンマーク語の文献収集にも努め、研究動向について更に深くフォローしていく。 また、歴史的考察が重要であることから、特に1980年代から1990年代にかけての産業構造の転換を主軸とした経済産業政策、財政政策、福祉政策、再生エネルギー政策、IT化への転換などについて文献・資料を発掘する。学会報告、セミナーなどを通じ、研究成果を公表し、また、他分野の北欧研究者、一般市民と交流することを通じて、問題意識を広げるとともに、市民的な感性を重視した研究態度を保持して行きたい。
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