2021 Fiscal Year Annual Research Report
深刻化する対応困難な保護者対応トラブルの事例研究を通しての紛争拡大防止の理論構築
Project/Area Number |
21H00817
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小野田 正利 大阪大学, 大学院人間科学研究科, 名誉教授 (60169349)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
園山 大祐 大阪大学, 大学院人間科学研究科, 教授 (80315308)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 保護者対応トラブル / クレーム対応 / 事例研究 / 苦情解決 / 学校紛争 / ハードクレーム |
Outline of Annual Research Achievements |
1.本研究は、学校と保護者の間の対応困難なトラブルの個別事例の臨床的な調査と分析を通して、トラブルを紛争状態に拡大させないメカニズムを精緻に分析し、保護者の要求の背景を見抜きながら、教職員が取るべき有効な方策の具体化と基本的な対応の理論を構築することにある。そして、対応困難な保護者対応トラブルの特徴は、次の3つに大別できる(重複ケースも多い)。①感情の起伏が激しく、コミュニケーションが難しくなり、長時間の対応を余儀なくされる。②暴行・脅迫などの違法行為を伴ったり、法外な慰謝料請求など不当要求に発展する。③話し合いを重ねても保護者の主訴が見えにくく、堂々巡りの議論となり、解決の糸口が見つからない。 2.この研究課題の遂行方法は、対応が困難となっている学校を直接に訪問して、校長・教頭といった管理職だけでなく、そのトラブルの渦中に置かれている教職員と個別に、相対して時間をとって事例の詳細な分析をすることに特徴がある。したがって訪問は1日だけでなく2日間にも3日間にわたることもあるが、それにより具体的なトラブル事案の全容が明らかになるだけでなく、紛争状態を小さくするために何が必要かを一つ一つ整理し、教職員に対して方向性を提示することができている。 3.過去に作成した教職員向けの小冊子『難しくなる保護者対応トラブル~こじらせているのは保護者? それとも学校?』(B5版、20頁)および『保護者対応トラブルのステージが上がった!~腹を据え、誠実に向き合う』(B5版、20頁)を増刷して、啓発のために関係する学校の教職員に無料頒布を続け、その配布数は2万冊を超えた。 4.調査研究を続けるほどに、想像を超えるような保護者対応トラブルの困難さが広がり、教職員の疲弊感が増している。いま教職員に必要なものは「法的知識を基盤とした誠実な対応」であり、従来までの勘や気合や経験といった3Kはまったく通用しない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1.研究代表者の研究拠点である大阪府は、新型コロナ感染症の罹患者数だけでなく、それに伴う死者数が全国で最多に及んだため、4月からの「まん延防止期間」だけでなく、夏場にも「緊急事態措置」が発令されていたため、研究のための行動制限を余儀なくされた。特に本研究課題は、対応が困難となっている学校現場を研究代表者らが直接に訪問して、対面での聴き取りという臨床学的調査を中心とするものであるために、大阪府以外に出ることが抑制されるだけでなく、積極的に来校して調査対象となりたい学校関係者からも研究代表者に対する依頼を躊躇するという状況が長く尾を引くことになった。 2.それでも、制限の合間をくぐって大阪府下の豊中市と八尾市の数校の学校を直接に訪問したほか、静岡県浜松市の2つの公立学校と私立学校、愛知県の私立高校、青森県の東部地区の中学校からの要請に応えて出向き、極めて難しくなっている保護者対応トラブルの現状について、かなり詳細なデータを収集することができた。 3.10月からは、全国各地からの要請もあり、兵庫県洲本市を皮切りに、愛媛県今治市、宮崎市、京都市内の私立学校、島根県松江市、三重県桑名市、熊本市(3校)、熊本県人吉市、岐阜県、国立大学の附属学校、北海道七飯町(2校)、岐阜市、仙台市(3校)と、年度末まで17校に出向くことで、より具体的な研究考察が可能となった。「2」で述べた場所と合わせれば24校になる。 4.これらの中には、研究代表者の居住地の近くということもあって、計7回ほど訪問した学校もあるが、いずれも教職員が普通の対応をしていたのでは止められないほどの難しい保護者対応トラブルが増えたことを実感した。 5.もう一方で教育学だけでなく、福祉学や心理学、さらには精神医学分野の文献調査を広くおこない、上記の実地調査結果と合わせて総合的に分析しながら、30数本の研究論文を出すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.新型コロナ感染症の拡大がなく、ある程度まで落ち着けば、面接調査を基本とした臨床的研究手法を十分に発揮できる。この場合、さらに現地調査をおこなう学校数を拡大し、より丁寧なデータ収集ともに、保護者からの激しい批判にさらされ、窮地に陥っている当該教職員に対するメンタルヘルスも考慮した聴き取り調査も大事にしたいと思う。 2.トラブル事案を俯瞰的に考察するためには、関係する多数の教職員からの断片的情報をつなぎ合わせながら、エコロジカル・マップのような一つの図にまとめて、それらを再度見直しながら、関係する教職員で合議し、トラブルの本質をアセスメントすることが重要になってくると思う。難しくなる保護者対応トラブルのケースには、単に保護者の側に問題があるというだけでなく、学校や教師側のミスや不手際も関係しており、それらをできるだけ中立的に見ながら考察を進めていきたいと考える。 3.訪問した学校の具体的事例は、研究代表者の訪問によってトラブル状態の打開の方向性が直ちにあらわれるわけではなく、なおも事態が深刻化したり長引いたりすることもある。研究代表者は「いったん関わった以上は、見捨てません、見放しません」と学校側に伝え、遠く離れていても、電話やリモートによって継続的に相談に乗ることを重ねてきている。これによって、ある時点でのトラブル現象が、時間の変化とともに、また学校側の対応次第で大きく変化するプロセス(時系列的変化)を考察することも可能になる。 4.保護者対応トラブルは、学校制度が成熟し、社会構造が複雑になればなるほど、どこでも起きるものといえる。このため研究分担者には、わが国の状況を参考にしながら、欧米特にフランスにおいて同様の現象があらわれていないか、またそれらにどのような対策を講じようとしているのかの比較研究調査をおこなってもらうことにする。
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