2022 Fiscal Year Annual Research Report
Research on the assessment of Early Education curriculum in Japan, New Zealand and Italy
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21H00846
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Toyo Eiwa University |
Principal Investigator |
塩崎 美穂 東洋英和女学院大学, 人間科学部, 准教授 (90447574)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 繁美 山梨大学, 大学院総合研究部, 名誉教授 (00191982)
吉川 和幸 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所, 研修事業部, 総括研究員 (30528188)
岡花 祈一郎 琉球大学, 教育学部, 准教授 (50512555)
赤木 和重 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (70402675)
川田 学 北海道大学, 教育学研究院, 准教授 (80403765)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 保育カリキュラム / 保育実践理論 / 保育の公共性 / 保幼小接続期 / イタリアの保育・幼児教育 / NZの保育・幼児教育 / ラーニングストーリー / プロジェクトアプローチ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、公平性と包摂性を備えた公教育にふさわしい保育カリキュラムの創造過程を明らかにし、そのカリキュラムを実現する保育実践「評価」の分析を行うことである。国民教育に値する保育カリキュラムとはどういうものか、保育の何をどのように「評価」すればその質は高まるかなど、教育的価値を含む保育内容の選択基準や、国や自治体が実施に責任をもちうる保育制度や行政システムについての開発が、日本ではすすんでいない。本研究ではこれまで、日本、ニュージーランド、イタリアにおける保育実践を歴史的文化的な視点から包括的に調査し、その実態の比較分析を通して、質の高い公的保育の諸条件を検証してきた。 どのような保育の費用対効果が高いのか、公費投入の妥当性を示す判断基準はなにか、カリキュラムの構造やその評価を含む保育制度やガバナンス(行政システム)についての分析が求められている。 北イタリアの自治体では、独裁政権に抵抗したレジスタンス思想をもつ保育カリキュラムが運用されており、これまでの予定調和的な保育計画と評価の関係が見直され保育実践が構築されている。公教育を他者と出会う公共空間ととらえ、そこでなされるいかなる決定にも価値と倫理の選択があり、倫理的政治的実践としての保育の実現がめざされているのではないかという仮説の検証を本研究では行っている。 NZではマオリ文化との双方向的な対話から、グローバルな社会で生きることは固有な一 つの国民性にしばられることではないことに気づき、一つだけの理想の子ども像や固定化されたアイデンティティを保育目標にせず、多様さの重なりによって成り立つ自己の「学びの物語」を肯定的形成的にアセスメント(評価)していると考えられる。 今後、NZの「学びの物語」とイタリアコムーネの「アプローチ」の双方に見られる特徴について調査を進め、保育実践における基礎原理についての分析を進めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、Covid-19による世界的な渡航制限のため、イタリアの「プロジェクト・アプローチ」についての調査や、ニュージーランド(以下NZ)のナショナルカリキュラム「テ・ファーリキ」についての調査を計画通りに進めることは難しかったが、日本国内の保育実践調査や関連資料収集に時間を割くことができ、おおむね順調に調査研究を進めることができている。 日本、NZ、イタリア、各国の保育実践に関する理論的研究の基礎として、それぞれの地域における保育・幼児教育の担当省庁の議会資料・法規を集め、国家カリキュラムの成立過程を調べ、通知文書(資・史料)の収集を行った。 現在、各自治体を通じて行われている日本の公的保育は、ナショナルカリキュラムとしての保育所保育指針や幼稚園教育要領等(2018施行)によって方向づけられている。近年の指針や要領では、日本型社会保障制度の基盤である家族機能の弱体化を保育施設の「子育て支援」で補完することが強調されるようになった。ケアとしての乳幼児期の「教育」が、公的な保育として位置づけられたといえる。これに加えて、保育の場から学校へと連結する「教育」的接面には「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」が示され、就学後の学習指導要領(2020年施行)が提唱する主体的学び(アクティブ・ラーニング)にも接続する「子どもの主体性」を育てることが、保育の公的な目的としてクローズアップされている。 経済効率的なカリキュラム開発が教育学や保育学に流れ込んでいる現在、その執行を担うガバナンス過程における保育評価が世界的標準化を進行させている状況に鑑み、子どもの自発性やその発達を尊重し研究してきた教育学や発達心理学に内在的な価値の発現を、いま一度、再考する必要があるのではないかと考え、調査を続けており、その基礎データの収集は順調に進んでいる。今後、海外視察調査を進めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まず第一に、日本、NZ、イタリアの保育実践に関する理論的研究の基礎として、各国における保育・幼児教育について現地視察調査を行う。その上で、担当省庁の議会資料・法規を集め、国家カリキュラムの成立過程を調べ、通知文書(資・史料)の収集を続ける。 加えて、日本、NZ、イタリアの保育の場を参与観察し、その実践についての省察を実践者とともに行う(半構造化インタビュー)も続けていく。保育者の語りや対話を記録し、ナショナルカリキュラムと保育現場の「評価」との関係、総体としての保育実践を明らかにしていきたい。 その際、保育記録として何を書いているのか確認したい。保育者は保育実践の何を記録し、どのような「評価」行っているのか、まず保育者自身の着眼点を明らかにする。以上の視察で得た情報を踏まえ、公教育としての信頼性のあるナショナルカリキュラムをつくるための実践上の条件、保育評価の背景にあるカリキュラムの実施実態(テ・ファーリキの保育理念の普及状況、ピストイア市やトスカーナ州の現任研修の仕組み等)、保育者の資質(保育者養成の内容や方法、保育者の処遇や社会的地位等)を調査し、どのようなカリキュラムで、いかなる専門性をもった保育者が、どういう社会的ネットワークをもち、保育をどのように「評価」している場合に保育の質が高まるか、比較分析を通して明らかにしていきたい。 2023年度は、2023年9月にNZのオークランドとハミルトン、2024年2月にイタリアのピストイアおよびトスカーナ州へ行き、保育カリキュラムと評価に関する視察調査を行いたいと考えている。
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