2021 Fiscal Year Annual Research Report
トラップされた単一と多数個のイッテルビウムイオンを組み合わせた超高精度光時計
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21H01013
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
杉山 和彦 京都大学, 工学研究科, 准教授 (10335193)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | イオントラップ / 光周波数標準 / イッテルビウムイオン |
Outline of Annual Research Achievements |
単一イオンの光領域の時計遷移スペクトルは、遷移周波数をキャリアとしてサイドバンドをともなった形状となる。サイドバンドは、イオンの永年運動によるドップラーシフトにより発生する。永年運動が時計遷移の波長サイズよりも狭い範囲、いわゆるラム・ディッケ領域にとどまるようにイオンを冷却すると、サイドバンドは十分小さくなり、キャリアを容易に同定することができる。単一イッテルビウムイオン(Yb+)について、コロナ前に一度は達成できた、ラム・ディッケ領域閉じ込めの再現を目指した。同位体174のYb+を用いて実験を進め、まず、単一イオンの確実な導入方法を新たに見出した。つづいて、トラップを駆動するRF電圧によるマイクロ運動を、3次元とも最小化する方法を再現した。そして、2S1/2ー2D5/2時計遷移の単一イオン分光をすすめた。まず、特定のゼーマン成分を同定し、さらに分解能を高めてサイドバンドが分離されたスペクトルを検出した。ここで、サイドバンドの強度が大きく、遷移の中心周波数であるキャリアの同定が困難となった。コロナ前との実験条件の違いを参考にして、冷却レーザー光の飽和の影響が原因であることを見出した。冷却レーザーのパワーを適切に設定することにより冷却時の到達温度を改善し、キャリアが最強となるスペクトルを再現性よく取得できるようになった。 また、多数個イオンを冷却するためのリニアRFトラップを設計し試作した。以前作製したバリウムイオン用のリニアRFトラップでは、径方向のレーザー冷却に難しい面があった。この経験をもとに、軸方向を閉じ込める静電場を与える電極を分割して、冷却レーザー光をトラップ軸に対して十分大きな角度で入射できるようにした。この方法で、軸方向だけでなく径方向も十分冷却できると期待する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Windowsアップグレードによる分光プログラムの再構築と、コロナ下での技術の引継ぎで苦労したものの、3次元のマイクロ運動最小化と時計遷移分光を再現できた。過去の実績とは異なり、この時点でラム・ディッケ領域閉じ込めを達成できなかった。これは、2台のトラップの同時動作のために、コロナ前に冷却レーザーのパワーを増強したことが原因だった。飽和広がりが大きくなり、到達温度に影響を与えたためである。この問題を解決し、キャリアが最強となるスペクトルを再現性よく取得できるようになった。ただし、スペクトルの構造の一本一本は十分狭く、レーザーは数100Hz間隔で細かく掃引する必要があり、現在1回のスペクトル取得に3時間程度かかっている。このことも進捗を妨げる要因となった。以上、単一イオンのラム・ディッケ領域閉じ込めの再現に手間取ったため、多数個イオンの研究にやや遅れが出ているものの、当初考えていなかった冷却レーザーの飽和の影響を見破り、実験が長時間にわたり回数が稼げない中でも、キャリア優先のスペクトルを再現性よく取得できるようになったことは今後の進捗に大きく、標記の自己評価とした。今後はスペクトル取得を可能な限り短時間でおこなうようにしていくことも重要と考える。 2S1/2ー2F7/2遷移励起用レーザーでは高出力化に用いているテーパー型半導体増幅媒質の温度安定化に課題があったため、新たな利得媒質を導入して温度安定度を改良した高出力レーザーの実現に取り組んだ。しかし、新しい利得媒質ではレーザーの単一周波数発振に課題があることが分かった。利得媒質の長さが長くなったことが原因として考えられる。テーパー型利得媒質では単一周波数発振が実現できない可能性があることが研究期間の早い段階で判明したのは幸運で、このことも踏まえて、励起用レーザーの高出力化の検討をおこなっていく。
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Strategy for Future Research Activity |
多数個イオンの時計遷移スペクトルを幅を広げることなく信号対雑音比を高く検出し、レーザーの周波数ゆらぎを低減させる。改善された周波数ゆらぎを光周波数コムで別の波長に移し、自然幅のきわめて狭い別の遷移を単一イオンで長時間観測し、中心周波数を決定する。単一と多数個のイオンの役割分担を1種類のイオンで実現できる唯一のイオン、イッテルビウムイオンを用い、世界最良の不確かさの光時計を目指す。 多数個イオンについては、試作したリニアRFトラップを動作させ、超微細構造をもたない同位体174Yb+を用いて、多数個イオンのレーザー冷却技術を確立する。到達温度や冷却可能な個数などを調べ、冷却イオン数を増やす方法を探っていく。そして、その技術を同位体171へ移し、2S1/2ー2D3/2遷移の基準スペクトル検出へ進む。 単一イオンについては、ラム・ディッケ領域へ閉じ込めるための条件をさらに詳細につめたのち 、その技術を同位体171へ移してラム・ディッケ領域に閉じ込め、2S1/2ー2D3/2遷移の基準スペクトルを検出する。また、検出した時計遷移スペクトルに対してレーザー周波数を安定化する技術の確立を目指す。 並行して、2S1/2ー2F7/2遷移励起用レーザーを完成させる。そして、報告されている2S1/2ー2D3/2遷移との周波数比を利用して、光周波数コムを用いて2S1/2-2F7/2遷移励起用レーザーの周波数を設定する。 時計遷移の周波数シフトの評価、ならびに2S1/2ー2F7/2遷移の励起には、2台のイオントラップ装置で同時に時計遷移分光をおこなう必要がある。2台の装置での同時分光技術を確立する。そして、2S1/2-2F7/2遷移の励起確認を目指す。 光周波数コムについては、さらなる長時間の低雑音連続動作に向けて研究を継続する。
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Research Products
(1 results)