2022 Fiscal Year Annual Research Report
動的ヤーンテラー効果のd軌道自由度を用いた多重物性制御と量子ダイナミクス
Project/Area Number |
21H01026
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
木村 尚次郎 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (20379316)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中野 元裕 大阪大学, 大学院理学研究科, 教授 (00212093)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 動的ヤーンテラー効果 / 多重物性制御 / 電気磁気効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
空間反転対称性を持たない点群Tdに属する遷移金属錯体化合物[MnIII(taa)]に関して、二次の電気磁気効果による磁場中での電場印加で起こる磁場に垂直な磁化発生を観測した。超伝導磁石中に置いた自作のピックアップコイル内の単結晶試料に交流電場を加えてこの磁化を測定したところ、電場と磁場との向きに依存して電場誘起磁化の方向が変化する振る舞いが観測された。すなわち[001]方向の磁場中では[100]方向の電場には垂直なのに対し[110]方向の電場には垂直となる。この振る舞いは電場誘起磁化は点群Tdの持つ対称性から期待される振る舞いと合致している。また、[MnIII(taa)]分子がヤーンテラー歪に伴って生じる電気双極子と電場との相互作用とMnIIIイオンの磁気異方性の両方を考慮した微視的なモデルによってこの磁化発生は説明されることがわかった。[001]方向に磁場を加えると磁場に並行な磁化が現れるとともに、磁気異方性のため各[MnIII(taa)]分子上に磁場に垂直な磁化成分が発生する。この垂直磁化成分はこの段階では結晶内で互いに打ち消し合うため全体としての磁化はゼロであるが、これに更に電場を加えるとこの分子の磁化の配置が歪んで打ち消し合いが解消して巨視的な磁化が発生する。今後は磁場にフィリングファクターを向上させたピックアップコイルによって、今後より精度の高いデータを取得することを計画している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に[MnIII(taa)]の二次の電気磁気効果による磁場誘起電気分極の観測とその微視的なモデルに基づく理解および磁歪と磁気キャパシタンス効果の観測に続き、本年度は電場誘起磁化の観測を行った。また動的ヤーンテラー効果のダイナミクスを低温までの広い温度領域で解明するため、 [MnIII(taa)]のMnIIIをGaIIIに置換することでスピンクロスオーバー転移を抑制した試料を作成しその誘電率測定を開始しており、研究は概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に観測した電気磁気効果による電場誘起磁化を、より内径を小さくしてフィリンファクターを上げるとともに同軸型に逆向きコイルを組み合わせて電磁ノイズを低減させたコイルによってより精度良く測定することをまずは目指す。そのデータとこれまで行った微視的モデルに基づく計算と比較し電場誘起磁化に関する定量的な理解を得る。また[MnIII(taa)]のMnIIIを非磁性のGaIIIに50%置換した[Mn0.5Ga0.5(taa)]に関して誘電率の周波数変化測定を行い動的ヤーンテラー効果のダイナミクスを明らかにする。これまでの測定から動的ヤーンテラー歪みの再配向が温度低下とともに熱活性型から量子トンネル過程に変化していく振る舞いが示唆されていることに加えてそのダイナミクスへの磁場の影響が観測されている。光変調弾性器を用いた可視光学測定装置も立ち上げており、[MnIII(taa)]の光学的な二次の電気磁気効果に由来して磁場中で生じると期待される電磁波の非相反線二色性応答の観測も引き続き行う。
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