2023 Fiscal Year Annual Research Report
Universality and mechanism of magnetic boson peak in spin glasses
Project/Area Number |
21H01045
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
古府 麻衣子 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究副主幹 (70549568)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | スピングラス / 中性子散乱 / 局所磁気励起 |
Outline of Annual Research Achievements |
スピングラスは、ランダムネスとフラストレーションを有する広範囲の磁性体に遍在する。複雑な磁気緩和挙動や履歴現象について多数報告がある一方、磁気励起に関する知見はほとんど得られていない。本研究の目的は、スピングラス状態に固有の素励起は存在するのか?その起源は何か?を明らかにすることである。R4年度までは、古典系スピングラスの代表物質である、結晶性の希薄磁性合金Cu1-xMnxとアモルファス酸化物FeO-Al2O3-SiO2の磁気励起を中性子非弾性散乱法を用いて調べた。スピングラス転移温度以下で、ボーズ因子でスケールされる局所磁気励起を観測することに成功した。この局所磁気励起は構造ガラスに普遍的に見られる局所振動励起(ボゾンピーク)と共通点が多いことから、「磁気ボゾンピーク」と呼んでいる。 R5年度は磁気ボゾンピークの磁場印加の影響を調べた。磁場を印加するとスピングラス転移温度(零磁場冷却と磁場中冷却の磁化が分離する温度)が大きく低下することが知られている。スピングラス転移温度の変化に伴い、磁気励起スペクトルがどのように変化するのかを明らかにするため、FeO-Al2O3-SiO2とCu1-xMnxの磁気中中性子散乱測定を実施した。驚くべきことに、4Tの高磁場を印加したにも関わらず、弾性散乱、非弾性散乱ともに変化が見られなかった。磁化率では主にスピンの縦成分を検知する。一方、中性子散乱で観測した磁気励起は、ボーズ因子でスケールされることから、マグノンの一種、つまり主にスピンの横成分に起因すると考えられる。磁場印加によりスピン縦成分の凍結温度のみが変化すると考えると整合する結果である。言い換えると、今回の結果はスピンの縦成分と横成分の分離が起こっていることを示唆する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
R5年度は、磁場下での磁気ボゾンピークの変化を調べ、磁場による変化がほとんどないことを実験的に明らかにした。また、R4年度までの成果を学術論文誌に掲載し、国際会議で招待講演を行った。以上のことから、「おおむね順調に進展している。」と判断する。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまで調べてきたCu1-xMnxやFeO-Al2O3-SiO2はハイゼンベルグ系であった。R6年度はイジング性スピングラスである(Fe,Mn)TiO3を対象とする。スペクトルの形状やその温度依存性はハイゼンベルグ型と異なると予想している。磁気異方性と磁気ボゾンピークの関係が明らかになれば、磁気ボゾンピークについてより深い洞察が得られるだろう。また、(Fe,Mn)TiO3はMn濃度によってリエントラントスピングラス相を発現し、冷却に伴い、常磁性、反強磁性、(リエントラント)スピングラスと転移する。反強磁性相とリエントラントスピングラス相、及びスピングラス相とリエントラントスピングラス相で磁気励起がどのように変化するのか、Mn濃度や温度変化を調べる。リエントラントスピングラスは理論的にその存在が予測されてきたが、実際の物質で起こる現象について統一的見解が得られているとは言い難い。スピンの動的構造の観測に適した中性子散乱法を駆使して、本物質のスピングラス及びリエントラントスピングラスの本質を明らかにしたい。
|