2022 Fiscal Year Annual Research Report
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21H01052
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
石崎 章仁 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 教授 (60636207)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 量子もつれ光 / 量子ダイナミクス / 時間分解分光計測 / 光合成光捕集系 |
Outline of Annual Research Achievements |
量子光は、レーザーなどの古典的な光には無い特有の性質を持ち、分光計測などに対する光の非古典性の巧みな適用法を見出すことで、光計測技術は革新的な発展を遂げる可能性がある。本研究課題では、複雑分子系の動的過程を時間分解計測することを念頭に、量子光の一種である量子もつれ光子の非古典相関を利用する量子分光計測の理論研究に取り組んでいる。これまでに我々は、ポンプ光にCWレーザーを用いたパラメトリック下方変換(PDC)によって発生させた周波数もつれ光子対を光源とする時間分解スペクトルの定式化を行ってきた。本年は、複雑分子系の動的過程の観測に対する本手法の有用性を明らかにするため、光合成色素タンパク質複合体の一つFenna-Matthews-Olson(FMO)複合体における時間分解スペクトルの詳細な数値解析を行った。FMO複合体内の色素分子が吸収する周波数帯域のもつれ光子対の発生方法としては、β-BaB2O4結晶、周期分極反転KTiOPO4結晶などの非線形光学結晶によるPDC過程を考えた。解析の結果、もつれ光子対の周波数分布は信号処理におけるsincフィルターとして機能し、PDC過程における位相整合条件の調節によってFMO複合体のスペクトル上の特定のピークを選択的に増強できることを示した。したがって、本手法は、複雑分子系における動的過程を電子状態ごとに追跡するのに利用できると期待される。また、この周波数フィルター機能は現在利用可能なもつれ光子発生技術の範疇で分光計測に実現可能であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度の研究計画として研究計画調書に記載した「もつれ光子対の生成に用いる非線形光学結晶の厚みの影響」および「二光子同時計測および光の量子干渉利用」について理論解析を行った。また、もつれ光子の偏向を利用した分光スペクトルの選択性および分解能向上について理論研究を推進し、論文を投稿した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画調書に記載のとおり令和5年度は「もつれ光子の偏光を利用した分光スペクトルの選択制および分解能向上」について引き続き理論研究を進める。 光合成光捕集タンパク質など多くの生体分子系では、内包される色素分子の遷移双極子モーメントの配向は生体反応の実現にために分子ごとに異なる値に最適化されており、非線形分光計測において照射する複数の輻射場の偏光が異なる場合には分光スペクトルが分子の遷移双極子モーメントと輻射場の偏光ベクトルの内積の多体相関関数に大きく依存する。複雑分子系への量子分光の応用に向けて、時間分解もつれ分光の理論をもつれ光子の偏光を取り扱えるように一般化する。
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