2021 Fiscal Year Annual Research Report
終端衝撃波のX線撮像分光による銀河系内最強加速器「カニ星雲」の加速機構の解明
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21H01095
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
森 浩二 宮崎大学, 工学部, 教授 (00404393)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | X線CCD / X線CMOS検出器 / カニ星雲 / パルサー星雲 |
Outline of Annual Research Achievements |
カニ星雲は、その構造が時間とともに変動することが知られている。我々は以前に、month のタイムスケールで wisp と呼ばれる波紋状の構造が終端衝撃波から広がる様子を示した。本年度は、year から decade のタイムスケールで変動する構造に着目して、研究を進めた。カニ星雲の内部空間構造を唯一空間分解可能な Chandra 衛星のデータに着目し、その 15 年を超える長期間の観測データを解析した。このタイムスケールでみると変動していない構造はないといえるが、おおまかにいえば、パルサーから離れるほど変動のタイムスケールが遅いことがわかった。長期時間変動を示した構造の中でも、とりわけ南側のジェットの変動は際立っており、約15年でジェットが30秒角ほど延伸したことがわかった。赤道面にあるトーラスのサイズがほぼ変化していない事実と対照的である。これらの結果は、国内の学会・研究会で報告した。
X線 CMOS 検出器の開発についての実績は、以下の通りである。まず、有望視していたセンサー構造である PDD 構造に関しては、悩まされていたリーク電流の原因を特定した。その上でリーク電流の抑制と高い分光性能の実現を両立する条件を示した。加えて、その過程で製作した素子を用いて、分光性能のウェルの不純物濃度依存性を評価した。大型素子については、現行の素子の問題点を洗い出し、新しい素子の製作に反映させた。このX線 CMOS 検出器を搭載する次世代X線天文衛星についても検討を進めた。これらの結果も、国内の学会・研究会で報告した。
また、X線CCD用に開発した pile-up simulator を、Suzaku 衛星に搭載されたX線CCD XIS に適用し、pile-up の効果を適切に再現することを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
カニ星雲は時間とともに構造が変化していく天体であるため、本研究の目的である空間分解したX線分光観測を行うにはまず構造の時間変化を理解しておく必要があった。また、Chandra 衛星が分光撮像した15年を超える多数の観測データは、複数の検出器かつ様々なデータ取得条件下で観測しているため、解析に使用する前にデータを精査する必要があった。特に、1回の露光時間の長さや回折格子の使用、CCD 上の焦点位置といった情報は、CCD シミュレータで検出器の応答を考慮する際に不可欠である。そこで、本年度はまず観測データの精査と選別に取り組んだ後、構造変化のデータ解析に取り組んだ。また、開発した pile-up simulator は、今後の分光解析にも活用していく。以上により、カニ星雲の長期時間変動の理解が進み、且つ、これから取り組む分光解析の下準備が完了した。
X線 CMOS 検出器の開発については、センサー構造においてここ数年悩まされていたリーク電流の原因を特定することができた。一方で、そのリーク電流抑制には不純物濃度を増加させる必要があり、そのためノード容量が増加し分光性能が低下することが懸念されたが、これはノード近傍の構造を調整することで解消できることがわかった。これにより、X線 CMOS 検出器のセンサー構造を確立することができた。これは小型素子での study であり、大型素子の開発も並行して進めた。これまでは、小型を大型化すると分光性能が大幅に低下していた。そこでデザインハウスに依頼して、回路構造を徹底的に見直した。この見直した回路構造と、小型で決めたセンサー構造を持つ新しい大型素子を設計・製造した。以上により、衛星搭載用の大型X線 CMOS 検出器開発として大きく前進することができた。
上記を踏まえて、本研究はおよそ当初の目的に沿って進めることができたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後については、まず、カニ星雲の長期時間変動の解析結果を整理する。南側ジェット以外の構造についても、時間変動が見えているので、それらの結果を系統的にとりまとめる。その後は、pile-up simulator を Chandra 衛星のX線CCDカメラ用に調整する作業から始める。手法については前回の経験からおよそ確立しており、それに従い進めていく。ただし、複数のデータが異なる観測条件で取得されているため、観測データ毎に調整が必要になると考えている。空間分解したX線スペクトルの pile-up 補正が終了した後は、その結果を基に粒子スペクトルと磁場強度を見積り、加速機構について議論する。
X線 CMOS 検出器の開発については、まずは昨年度開発した大型素子の評価をおこなう。これまでの大型素子と異なり、小型素子と同等の性能を示すことが期待される。納品後は基本的な電気的性能を確認した後、アナログ信号を確認しつつ、分光性能を評価する。特に空間的な分光性能の変動の有無には注意する。必要であればインプラント条件の見直しもおこなう。また、これと並行して、小型素子を用いて新しく確立した PDD 構造に対する放射線耐性の評価もおこなう。これに関しては、PDD 構造よりもさらに放射線耐性の強化が期待される SPP 構造を新たに発案し、こちらの素子も製造をおこなったところである。PDD 構造と比較して SPP 構造の素子の分光性能評価、放射線耐性の評価もおこなっていく。
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Research Products
(12 results)