2021 Fiscal Year Annual Research Report
99番元素Es標的を用いた重アクチノイド核の特異な核分裂機構の解明
Project/Area Number |
21H01098
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
浅井 雅人 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究主幹 (20343931)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 核分裂 / 重アクチノイド / アインスタイニウム |
Outline of Annual Research Achievements |
中性子過剰Fm同位体では、自発核分裂片の質量分布が非対称分布から対称分布へと突然変化する極めて特異な物理現象が観測される。本研究では、合成が極めて困難な中性子過剰Fm領域核を、半減期276日のEs-254標的に重イオンビームを照射することで合成し、対称・非対称分裂それぞれにおける質量分布と全運動エネルギー分布の相関、並びにそれらの励起エネルギー依存性を測定することで、対称・非対称核分裂それぞれにおける分裂核の変形状態や障壁ポテンシャル構造を明らかにし、この領域の特異な核分裂現象の発生メカニズムを解明することを目的とする。 本年度は、対称・非対称核分裂の競合が観測されるMd-259の自発核分裂の測定を実施した。標的原料となる極微量のEs-254を米国オークリッジ国立研究所から購入し、原料に含まれる不純物を極限まで取り除く化学分離を行った後、電着法により直径1mmのEs-254標的を作製した。これに原子力機構タンデム加速器からのO-18ビームを照射し、多核子移行反応によりMd-259を合成した。生成核をオンライン同位体分離装置ISOLを用いて同位体分離したのち、回転円盤型測定装置に設置したSi検出器を用いて自発核分裂片のエネルギーを測定した。3月に10日間の実験を行い、100以上の自発核分裂事象の観測に成功した。4月以降も実験を継続し、統計精度の高いデータを取得して詳細な解析を実施する計画である。 また、核分裂片のエネルギー解析に必要なSi検出器の重イオンに対する応答を高精度で把握するため、タンデム加速器からの単色重イオンビームを用いて様々なイオン種、エネルギーに対するSi検出器の波高欠損とエネルギー分解能を詳細に測定した。その他、エネルギー分解能向上のため、プリアンプの開発や、波形解析による入射粒子及び入射角度識別の研究も進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はEs-254を入手して標的を作製し、今年度終わりから来年度前半にかけてMd-259等の自発核分裂の測定を実施する計画であった。オークリッジ国立研究所におけるEs-254の分離精製工程に数か月の遅れが生じたものの、2月初旬に原子力機構にEs-254が到着し、3月初旬にMd-259の測定を開始することができた。Es-254の化学精製と電着法による微小標的の製作は、2年前及び4年前の作業経験を生かして、極限まで不純物を取り除く化学分離工程を確立し、わずか数週間で標的を作製することができた。直径1mmの微小標的にピンポイントで重イオンビームを照射するためのビーム調整方法も確立し、安定してMd-259を生成することができるようになった。3月初旬から合計10日間の測定を行い、Md-259の自発核分裂事象を100イベント以上観測することに成功した。4月から5月上旬にかけても合計17日間のMd-259の測定を予定しており、データ解析に十分な統計量を得ることができる予定である。 更に、核分裂片エネルギーの解析に必要なSi検出器の重イオンに対する応答を高精度で把握するため、単色重イオンビームを用いた波高欠損とエネルギー分解能の詳細な測定を実施した。また、核分裂片測定のエネルギー分解能の更なる向上のため、プリアンプの開発や、波形解析による入射粒子の種類や入射角度を区別するための研究も実施した。 よって今年度の研究の進捗状況としては、計画通り順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
Md-259の自発核分裂測定が順調に進んでいるため、令和4年度は令和5-6年度に実施予定であった中性子過剰Fm同位体の対称・非対称核分裂の励起エネルギー依存性測定を前倒しで実施する計画である。5月上旬にMd-259の測定が終了した後、速やかにEs-254標的を溶解して再精製し、インビーム実験用のEs-254薄膜標的を作製する。Es-254標的にタンデム加速器からのB-11ビームを照射し、多核子移行反応で生成される中性子過剰Fm, Md同位体の核種と励起エネルギーを散乱粒子を検出することで同定し、それら生成核の励起状態からの即発核分裂を測定する。6月初旬から7月初旬にかけて、合計23日間の実験を行い、主に中性子過剰Fm, Md同位体の低励起状態からの即発核分裂の質量分布と全運動量分布の相関及びそれらの励起エネルギー依存性の測定を行う。これらの実験が順調に完了すれば、令和5-6年度は更に別の同位体の自発核分裂測定や、Li-7ビームやHe-3ビームを用いた更に低励起状態からの即発核分裂測定等を実施する予定である。
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