2021 Fiscal Year Annual Research Report
Exploring the spacetime structure and the origins of supermassive black holes by general relativistic radiative transfer with high accuracy
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21H01132
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tomakomai National College of Technology |
Principal Investigator |
高橋 労太 苫小牧工業高等専門学校, 創造工学科, 教授 (40513453)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
梅村 雅之 筑波大学, 計算科学研究センター, 教授 (70183754)
大須賀 健 筑波大学, 計算科学研究センター, 教授 (90386508)
朝比奈 雄太 筑波大学, 計算科学研究センター, 研究員 (00783771)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 一般相対論的輻射輸送 / 光子多重散乱 / ブラックホール / 湾曲時空 / ボルツマン方程式 / 一般相対論 |
Outline of Annual Research Achievements |
一般相対論的光子ボルツマン方程式を数値的に解く際の未解決問題に、因果律を保存した光子多重散乱を扱う手法が確立していないという問題がある。つまり、任意の光学的厚さをもつ状況において、相対論的な速度で運動する流体中において、相対論的に正確に光子多重散乱を計算する手法が存在しない。この問題を克服するために、当初は数値積分を含む準解析的な手法を構築しつつあったが、その開発途上で、偶然にも光子多重散乱を記述する時空中の確率密度関数の解析解の発見に成功した。この解をもとに計算することで、任意の数値精度で光子多重散乱を扱うことが可能となった。これは、数値精度の範囲内で厳密な扱いができることを意味している。 今回発見された相対論的光子多重散乱の解析解と準解析的な扱いを比較すると、準解析的な解は精度が悪いところでは2, 3桁程度の精度しか出ていなかったこともわかった。これは、たちの悪い2重の振動積分を数値的に解く必要があることに起因する。また、新たに得られた解析解は、相対論的流体中での光子多重散乱の相対論的モンテカルロ計算の結果を再現することもわかった。相対論的モンテカルロ計算は、統計的な分散のために高精度の解が得られない領域が比較的広い領域として存在するが、そのような領域でも解析解は誤差が事実上ゼロの結果を与えることが可能であることも分かった。また、分担者および分担者所属機関の研究者と密に連携をし、流体計算との結合を視野に入れた解析、従来の輻射輸送計算シミュレーションの空間3次元化と高精度化の具体の数値計算コード開発も同時に並行して進めた。また、湾曲時空中の光子測地線の厳密計算に必要な解析解コードの開発も並行して進めた。これらの成果は、日本天文学会、日本物理学会において公表し、投稿論文を準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一般相対論的ボルツマン方程式を数値的に解く手法として、研究代表者と分担者は過去にARTIST法と呼ばれる湾曲時空の位相空間に計算メッシュを張って、光子場を計算する方法を提案したが、この方法には克服すべき課題があった。1つ目の課題は、任意の光学的深さでの光子多重散乱を厳密に扱うことができないという課題であり、2つ目の課題は、不変分布関数を数値的に解いていたために、光子数の保存が厳密に保たれていないという課題である。今年度は、これら2つの課題の克服に関し、明確な進展があった。1つ目の課題に対しては、相対論的流体中の光子多重散乱の確率密度関数の解析解が偶然、発見されたことにより、課題であった問題を厳密に解くことが可能となった。これにより、任意の数値精度で光子多重散乱を扱うことができるようになった。2つ目の課題に関しては、分担者との密な連携の結果、光子数密度フラックス4元ベクトルを正確に解く手法が開発された。この手法により、光子数保存の精度が向上した計算を実行することが可能となった。また、光子場を空間3次元で計算することが可能な数値計算コードの開発にも成功した。これらの結果は、どちらも学会において公表され、投稿論文を準備中である。一方で、上記の光子多重散乱の問題を、より一般的な非等方非弾性散乱に拡張する試みを実行するに至らなかった。この理由としては、光子多重散乱の高精度計算が可能な解析解が発見されたため、従来の計画であった数値積分を含む準解析解の整備から、より厳密な解析解の整備に方針を転換したため、より多くの工数が必要となったためである。より多くの工数をかけた結果として、従来の計画よりも10桁程度以上正確な計算が可能となったことから、方針転換による利益は大きかったと考えている。以上の理由により、現在までの進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
一般相対論的ボルツマン方程式を数値的に解く手法の開発を継続して行う。まず、前年度に発見した光子多重散乱の解析解を、一般相対論的輻射輸送シミュレーション・コードに組み込むための整備を行う。具体的には、解析解の結果を数値表の形に帰着させ、シミュレーションに実装することができるか検討し、試行的な数値コードを開発する。この際、分担者と密な議論をし、湾曲時空の流体計算と結合させることも視野にいれた計算手法の開発を念頭に置きつつ進める予定である。この手法の開発に目途が立った後、光子多重散乱の厳密な取り扱いを取り入れた一般相対論的輻射輸送シミュレーション数値計算コードを開発し、計算を実行する。この際、前年度に開発された光子数が保存される新手法を用いて計算を実行できればと考えている。この手法の確立の後、流体計算と結合させたコードの開発を行うこととなる。 また、光子多重散乱の取り扱いの拡張も考えている。具体的には、非等方散乱を扱える方向への拡張、非弾性散乱を扱える方向への拡張、光子多重散乱の解析解を元に連続光源から放出される光子場を厳密に扱う方法の開発を考えている。 一方、回転ブラックホール時空における光子ボルツマン方程式を直接解く際に必要な位相空間中に張る計算メッシュを高精度に計算することができるか確認する作業が残っている。簡単な計算によると、ブラックホールの回転が最大回転に近い場合には、ブラックホール周囲の光子球近傍のヌル測地線を、倍精度の数値精度では、全てのパラメータで高精度に計算できない兆候があることを把握している。この問題を克服するために、光子測地線を数値的に解くのではなく、解析的に解く手法が必要となる可能性があるので、測地線の解析解を利用した計算方法の確立も視野に入れて、計算手法の開発を進める。
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