2021 Fiscal Year Annual Research Report
近年の北極域海氷減少が引き起こす熱圏・電離圏変動の解明
Project/Area Number |
21H01150
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
三好 勉信 九州大学, 理学研究院, 准教授 (20243884)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
品川 裕之 国立研究開発法人情報通信研究機構, 電磁波研究所電磁波伝搬研究センター, 研究員 (00262915)
藤原 均 成蹊大学, 理工学部, 教授 (50298741)
陣 英克 国立研究開発法人情報通信研究機構, 電磁波研究所電磁波伝搬研究センター, 主任研究員 (60466240)
垰 千尋 国立研究開発法人情報通信研究機構, 電磁波研究所電磁波伝搬研究センター, 研究員 (80552562)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 超高層大気変動 / 大気上下結合 / 数値シミュレーション / 大気波動 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の北極域の海氷減少が,成層圏循環の変化を経由して超高層大気(熱圏・電離圏)に影響を及ぼしているという仮説を実証するために,数値モデルを用いて,1990年から2000年代以降の大気大循環変動についての解析を実行した。2000年代以降は成層圏突然昇温が数多く発生したのに対して,1990年代には成層圏突然昇温はほとんど発生していない。このことから,近年の海氷減少との関連で,成層圏突然昇温とそれに伴う熱圏・電離圏変動に焦点を当てて解析を行った。まず,2010年以降に発生した成層圏突然昇温について,熱圏・電離圏での大気波動の影響について解析を行った。北半球冬季での成層圏突然昇温時には,半日潮汐波の増幅や熱圏平均温度の低下がみられることがわかった。さらに成層圏突然昇温に伴い,惑星波(2019年1月では4日波,2019年9月の南半球突然昇温では6日波など)の活動が活発になる場合があることも明らかとなった。これらの大気波動の変化により,成層圏突然昇温時には,電離圏で半日周期や4日・6日周期の電離圏変動が顕著になることがわかった。さらに,成層圏突然昇温に伴う熱圏での子午面循環や大気組成変動についても初期解析を実施した。 2000年代以降と1990年代での大気循環の違いを明らかにするために,数値モデル(大気圏ー電離圏結合モデルや全中性大気大循環モデル)をもちいて,1990年代の計算を実施した。計算では,1990年代の気象再解析データを下部境界条件として用いることで,現実的な対流圏・成層圏循環の再現が可能となるように設定した。太陽活動や地磁気活動を一定とした計算により,成層圏突然昇温の有無と熱圏・電離圏変動の関連についての解析が可能となった。1990年代の冬季における熱圏循環についての初期解析を実施し,成層圏突然昇温がほとんど発生しない1990年代冬季の熱圏での大気循環の様子を解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
対流圏から熱圏・電離圏までを含む大気圏―電離圏結合モデル(GAIA)による,2010年代以降の数値計算結果をもとに,成層圏突然昇温が熱圏・電離圏変動に及ぼす影響についての解析を実施することができた。特に,2019年1月,2019年9月,2021年1月の成層圏突然昇温時の大気波動のふるまいについて詳しく解析を実施した。その結果,北半球冬季に発生した成層圏突然昇温においては,半日潮汐波と移動性惑星波の増幅を示すことができた。一方南半球での成層圏突然昇温(9月)においては半日潮汐波の増幅はほとんど見られず,移動性惑星波の増幅のみが顕著であった。このように,北半球冬季と南半球での成層圏突然昇温の熱圏・電離圏応答の違いについても示すことができた。さらに,これらの大気波動の増幅は,中間圏や下部熱圏で顕著であるだけではなく,電離圏にも影響を及ぼしていることが,大気圏―電離圏結合モデル結果の解析から明らかとなった。熱圏と電離圏の相互作用過程は,熱圏と電離圏の相互作用過程を含んだ数値モデルによる解析から明確に示される結果である。 また,1990年代の気象再解析データ(対流圏・成層圏)の取得を進め,数値モデルに組み込みができるように設定を行った。その結果,1990年代の観測に基づく下部境界条件での数値計算を実施することが可能となり,2000年代以降との熱圏・電離圏循環の違いを調べることが可能となった。1990年代の大気循環計算結果についても,初期解析を実施し,おおむね問題なく数値計算が実行できていることが確認できた。今後のさらなる解析が可能な状態となった。 成層圏突然昇温時の熱圏・電離圏での変化の様子を,国際会議および関連する国内学会で発表ができたことは,研究成果の発表促進の観点からも意義は大きい。このように,おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
近年の北極域の海氷減少が下層大気の循環変動を介して,大気波動の活動度変化と熱圏・電離圏変動を引き起こしているという仮説の検証を引き続き実施する。昨年度に引き続き,2000年代以降の熱圏・電離圏循環(成層圏突然昇温の多発期)と1990年代の熱圏・電離圏循環(成層圏突然昇温の極少期)の違いに着目して解析を実施する。その際は,対流圏・成層圏・中間圏・熱圏の各層での大気波動(大気潮汐波・大気重力波)の活動度を調べ,成層圏より上の高度域での大気波動活動度変調について検証する。これらの大気波動活動度の変調について,空間分布と時間変動を4次元で抽出し,成層圏・中間圏の循環変動との関連を評価する。特に,成層圏突然昇温時に増幅する移動性惑星波(4日波,6日波,10日波, 16日波)のふるまいについて解析を実行し,移動性惑星波の成層圏から下部熱圏への伝播・増幅過程についても明らかにし、成層圏突然昇温時の電離圏の日々変動との関連について明らかにする。さらには,成層圏突然昇温に起因したと考えられる熱圏の子午面循環変動やそれに伴う大気組成変動に注目して解析を行う。必要があれば,1980年代の大気循環計算も実施できるように準備を進める。これらを基に1980年から2020年までの40年間の熱圏・電離圏循環の長期変動が見積り可能かどうかの検討を実施する。 成層圏突然昇温時の電離圏変動については、地上観測より得られた全電子数についての解析を中心に行ったが、今後は衛星観測についても解析を行っていく予定である。衛星観測については,できるだけ多くのデータとの比較が実施できるように検討を加える。さらに全電子数観測や衛星による電子数観測については2000年以前の観測がないため、1990年代との比較については、イオノゾンデ観測を活用できないか検討を実施する。
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