2021 Fiscal Year Annual Research Report
地震波データの多面的解析によるスロースリップ発生域の水移動モデルの高度化
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21H01176
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
中島 淳一 東京工業大学, 理学院, 教授 (30361067)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 減衰 / 時間変化 / 水 |
Outline of Annual Research Achievements |
Nakajima and Uchida(2018)は,茨城県南西部の沈み込むフィリピン海プレート境界におけるスロースリップ(SSE)発生域周辺(深さ 40-50km)でのP波の減衰構造の時間変化を調べ,SSEによる上盤への排水が1年周期で繰り返されていることを明らかにした.しかし,このサイクルにおけるSSE発生前の水の挙動は観測では明らかになっていない. そこで本研究では Nakajima and Uchida(2018)の結果を踏まえ,同領域でのSSE発生域周辺におけるスラブ内の減衰構造の2009年から2020年の時間変化,及びスラブ内地震活動の時間変化を MeSO-netの波形データを使用して調べた.その結果,SSEが発生する 0.2~0.4 年前にスラブ内の減衰,及び地震活動度が上昇していることがわかった.これは,スラブ内の水がプレート境界へ排出される過程を反映していると考えられる. スラブ内から上盤に至る水の輸送過程の時間変化を検出した初めての研究である. また,上盤における S 波の減衰構造を調べP波の減衰構造と比較をしたところ,常に P 波の方が S 波より減衰が2倍ほど大きいことがわかった.これと同様の結果は南カリフォルニアの観測や室内実験で報告されている.しかしながら,水が関与する場合にはP波よりもS波の減衰が大きくなることが期待される.これらの観測事実は室内実験やモデルから予測される結果と一致しない.さらに観測の精度を高めることで減衰のメカニズムのさらなる理解につなかがると期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで上盤側の構造解析しかなされていなかった茨城県北西部のスロースリップについて,スラブ内の構造の時間変化を検出することができた.この結果は,スラブ内の脱水プロセスと上盤への水の供給がプレート境界のSSEを介して行われることを示唆する重要な結果である.本研究は世界で初めての検出であり,研究は極めて順調に進行していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
紀伊半島での地震波観測を予定していたが,茨城県南西部におけるデータ解析により様々なプロセスの理解が進む可能性が高いため,次年度もこの地震活動およびその周辺の地震波不均質構造の検出を引き続き行う.そこでは,地震波減衰だけではなく地震波速度の時間変化,地震のメカニズム解の時間変化もあわせて解析する予定である.また,別のターゲットとして,西南日本の短期的/長期的SSE発生域周辺においても同様の解析を行うためのデータの収集または臨時観測の準備を行う.
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