2021 Fiscal Year Annual Research Report
単分子多反応検出モデルに基づく高感度匂いセンサの研究
Project/Area Number |
21H01334
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
内田 秀和 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (60223559)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長谷川 有貴 埼玉大学, 情報メディア基盤センター, 准教授 (90344952)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 人工嗅覚 / 匂いセンサ / 二次元電気化学センサ / LAAS / 自己組織化単分子膜 / ペプチドアレイ |
Outline of Annual Research Achievements |
鋭い嗅覚を持つイヌは探知犬として多方面で活躍しているが、多数の探知犬を維持するには多くの困難を伴う。本研究はイヌの嗅覚に匹敵する感度と選択性を持つセンサを実現するために、新しい検出原理に基づくセンサによりこれまで難しかった多数の微小なセンサを集積化した嗅覚器の研究を行う。本センサは実績のある電気化学測定法にペプチドを用いた人工受容体を網羅的に配列させるものであり、空気中の匂いを流動粘液中に取り込んで多数のセンサで感知する仕組みを構築することで、多くの外乱を含む大気中でも目的の匂いを感知できる嗅覚器の実現を目指す。 本年度の研究から匂い分子感応膜に関する知見、センサシステム構築方法に関する知見が得られた。感応膜に関しては自己組織化単分子膜(SAM)のイオンブロックの効果が高いことから膜抵抗の変化が顕著に観測されること、および二次元電気化学センサLAASを用いて疎水性部位を持つ分子がSAMに吸着することで膜抵抗の変化が観測されたことがわかった。この結果を論文として投稿した。また、膜に匂い分子に対する選択性を持たせるため、ペプチドを用いた感応膜の作成を開始し、残基数5のオリゴペプチドを用いてアルカナール検出の実験を行った。その結果、低濃度域で濃度依存性がある反面、高濃度域で濃度依存性が反転する現象が観測され、アルカナールに含まれるアルデヒド基がセンサ応答に関与していることが推測された。アルデヒド基は多くの匂い分子に含まれることから、センシングに積極的に利用する必要性が示された。 また、センサシステムについて二次元電気化学センサがシンプルな構造である反面、測定に時間がかかるという短所を克服するため、並列測定を実現するセンサ構造と測定技術の開発を開始し、コストの低減と測定信号の低雑音化に有効であることを確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
二次元電気化学センサ(LAAS)の表面に感応膜を作成して匂い分子認識デバイスを作製した。LAASは構成材料によって無機、有機、および有機無機ハイブリッドの3種類があるが、ハイブリッド型が安定性と高出力が得られ、センサデバイスとして好ましいことがわかった。しかし、一般的に機能性薄膜の形成は均一な無機素材に結合するアンカー分子を利用することが多く、センサ最外面が銅フタロシアニンのハイブリッドLAASはこれまでの手法では機能性薄膜の形成が困難である。このため、匂い分子を識別するためのアレイ化センサを構築するため、銅フタロシアニン上に金のアレイ電極を形成することとした。金アレイ電極上にはSAM膜を形成し、さらにペプチドを結合させる手法を用いてデバイスを作製した。これを用いて水溶液中に存在する匂い分子の検出の実験ができる環境を整え、残基数5のオリゴペプチドを感応膜に試用してセンサ応答の評価を始めた。感応膜についてペプチド-SAMの他、ゾルゲル法による分子鋳型膜も並行して可能性を検討したが有効な結果は得られなかった。 空気中の匂い分子を水溶液中に取り込み、センサで測定するためのシステムを構築するため、気体と液体を効率的に接触させてセンサ表面に流す流路の設計を行った。複数のピラーを立てた薄層流路中に気体を流した時の圧力と流速について流体シミュレーションを行い、ピラーの太さ、数、配置について均一な流れが得られるデザインを行った。実際に流路を作製するためのリソグラフィ装置を予算に合わせて再設計し直し、リソグラフィの露光装置の発注、納品を受けた。コロナ禍により主要装置の納品が予定より大幅に遅れたため、稼働は実施年度中に間に合わなかったが、露光装置の一部について設計通りの露光面積、露光分解能、露光時間の性能を確認することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度完了できなかったフォトリソグラフィ装置の構築を完了させ、センサ表面に構築する流路の試作を行う。試作流路を用いて測定用電解液とサンプルガスの注入試験を行い、流体の挙動評価を行う。薄い層状の流体を維持するため、構造体表面の親水化、疎水化の処理も含めた流体制御の検討を行い、薄層の維持が困難な場合には気泡を含む混成層の利用も合わせて検討するものとする。また、気体から液体への匂い分子取り込みについて具体的な評価指標を得るため、実際に匂い成分を含む気体から、液体へ取り込まれる分子の量についてガスクロマトグラフィを用いて評価する方法を検討する。 感応膜については本年度の成果を踏まえSAM-ペプチド積層膜の研究を継続し、感度、選択性について評価を行う。また、アプローチの多様化を図るため、本年度好ましい結果が得られなかった分子鋳型法についても、ゾルゲル法以外に共重合ポリマーを用いる方法について検討する。また、ペプチドを用いた分子鋳型法についても検討を行い、デザイン可能な選択性の付与の方法を研究する。 センサデバイスとしてのLAASについてもより高感度化を進めるため、Si基板のドープ量、厚さなどの製造パラメータがセンサ特性に与える影響について検証する。また、低濃度域の濃度依存性を改善するため、センサ信号の処理方法についても再検討し、検出感度向上の研究を行う。
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