2022 Fiscal Year Annual Research Report
単分子多反応検出モデルに基づく高感度匂いセンサの研究
Project/Area Number |
21H01334
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
内田 秀和 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (60223559)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長谷川 有貴 埼玉大学, 情報メディア基盤センター, 准教授 (90344952)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 人工嗅覚 / 匂いセンサ / 二次元電気化学センサ / LAAS / 自己組織化単分子膜 / ペプチドアレイ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はイヌの嗅覚に匹敵する感度と選択性を持つセンサを実現するために、新しい検出原理に基づくセンサにより多数の微小なセンサを集積化した嗅覚器の研究を行った。 気体中の匂い分子を水溶液中に効率的に取り込むためにセンサの表面に水溶液とサンプルガスを流す流路の試作を行った。昨年度に設計した形状条件を継承して実際の流路をデザインし、光造形法3Dプリンタにより光感応レジンで作製した。2層を別に作成して積層する構造にすることで、設計した構造を作成できることがわかった。 また、気体から液体へ匂い分子を取り込む過程の具体的な性能評価を行うため、ガスクロマトグラフィを用いて液体に取り込んだ分子数の評価する方法について検討を行った。その結果、気体と液体の接触方法、液体の組成を変えることで気体中の匂い分子の取り込み量が変わることがわかった。 LAASに用いるSi基板の製造パラメータがセンサ特性に与える影響について検証を行った。その結果、Si基板のドープ量を増やした方がキャリアの拡散距離が短くなって空間分解能が高くなる反面、空乏層幅が狭くなって裏面からの光励起キャリアを捕捉しにくくなることがわかった。また、逆にドープ量を少なくする方が空乏層幅が広くなってセンサの信号が大きくなる反面、Siバルク領域が狭窄して観測信号が減少することがわかった。よって、適切なドープ量とSi基板厚を維持することが重要であることが明らかになった。 また、吸着自己組織化単分子膜に疎水性部位を持つ分子が吸着することにより膜抵抗が変化することを二次元電気化学センサLAASで観測した結果について、昨年度の実験から得られた成果をまとめて論文誌として公表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
フォトリソグラフィ装置の主要装置の一部がコロナ禍の影響により未納のため、未完成でもセンサ基板のフォトリソグラフィのみに用いることとし、流路の作成には別途簡易型の3Dプリンタを導入して試作することとした。試作した流路は一部が閉塞した状態ではあったものの、水溶液の注入が容易にできることを確認できた。しかし、水溶液と共に気体を同時に注入する際の圧力制御が難しいことがわかり、流路構造のスケール変更、あるいは表面組成の改質などの必要性があることが示唆された。 ペプチドを用いた感応膜で匂い分子の一種であるノナナールとノネナールの測定を行った結果、どちらに対してもセンサ応答が得られた反面、センサ応答が類似して区別がつかず、感応膜の選択性が低いことがわかった。そこで、ペプチドを固定化する際に匂い分子も共存させることで分子鋳型法に類似したペプチド配置を得る試みを開始した。 感応膜についてアプローチの多様化を図るためペプチド以外の分子鋳型法について、ゾルゲル法の再検討と共重合ポリマーを用いる方法を新たに検討した。どちらの手法についても膜の密度と厚さの制御が困難で、LAASによる電気化学測定に適した膜の作製条件を見出すことはできなかった。 匂い分子の測定で重要な要素と考えられるセンサの高感度化を測るため、LAASデバイスの測定のプロセスおよびセンサ信号の処理方法についても再検討を行った。その結果、センサ表面の酸化還元物質の濃度は想定より早く枯渇して拡散律速による反応過程になっていることがわかり、アレイ電極中の単一の金電極に対し1回のプロセスで測定を完了することが好ましいことがわかった。また、単一プロセス測定に合わせて信号処理方法を最適化できる可能性があることがわかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
センサ表面に形成する気液二層の流路について、試作結果に基づく知見から効率的に気相中の匂い分子を水溶液中に取り込める流路の設計を進める。形状パラメータの見直しだけでなく、気液界面の接触面積を大きくできる新しい流路の設計も試みる。また、密閉型の流路が実現困難な場合を想定して、流路の一部を大気に解放して匂い分子を取り込むオープンエア型の流路についても検討を始める。 センサ感応膜については継続してSAM-ペプチド膜について検討を進める。実験結果はSAMの固定化密度が不十分である可能性を示唆したことから、電界アシストなどにより固定化密度を高めることを検討する。高密度化によりイオンブロックによる膜抵抗を高めるとともに、金膜上での分子の流動性を抑えることで、ペプチド固定化後の位置変動を防止し、分子鋳型としての機能を維持することを検討する。SAM膜の評価にはこれまで通りLAASデバイスを用いるとともに汎用ポテンショスタットを併用して、より広い知見が得られるようにする。感応膜に用いるペプチドについてはさらに調査を進めるとともに、匂い分子とのアミノ酸残基との相互作用について実験データの蓄積を行い、匂いセンサのペプチドをデザインするための指針を明らかにする。 LAASの測定方法について従来は利便性から二次元画像を取得するラスタースキャン測定法を用いていたが、金電極が散在するアレイ型センサの場合には不必要な繰り返し測定が行われるため、金電極上のイオンの無駄な消費と測定時間の浪費があった。そこで、今後は測定プロセスを見直し、1つの金電極に対して1回の励起光照射プロセスで測定を完了させる方法を検討し、制御プログラムの改善を行う。
|