2022 Fiscal Year Annual Research Report
下水処理プロセスを担う原生動物のメタン生成マイクロリアクターとしての代謝基盤解析
Project/Area Number |
21H01467
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
新里 尚也 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 准教授 (00381252)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 細胞内共生 / 原生動物 / 嫌気 / メタン / バクテリア |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までに沖縄県内の浄化センターより培養株を樹立したScuticociliate GW7株の細胞内共生バクテリアである、Ca. ヒドロゲノソモバクター・エンドシンビオティカスの全ゲノム解析を完了して論文として報告した。今年度は、得られたゲノム情報より当該バクテリアの基本的な代謝様式を推定することで、宿主原生動物への寄与について考察した。その結果、Ca. H・エンドシンビオティカスは、解答系やTCAサイクル等の中央代謝に関する遺伝子をほとんど欠失していることが明らかとなり、どのようにエネルギーを得ているかが判然としなかった。その一方で、Ca. H・エンドシンビオティカスは、水素産生オルガネラであるヒドロゲノソームに密着して存在していることから、エネルギー源として水素を利用していることが考えられたが、この場合は付随するメタン菌と水素をめぐって競合することになり、2つの共生体が共存することは難しいと考えられた。また、ゲノム情報の詳細な解析から、NiFeヒドロゲナーゼ等の水素利用に必要な酵素もコードしていないことが示された。その一方で、Ca. H・エンドシンビオティカスはリッケチアに近縁なバクテリアであり、多くの近縁種と同様にATP/ADPトランスロケースをコードしていた。リケッチアは他の生物に感染してATP/ADPトランスロケースを利用して宿主よりATPを搾取して生存していることから、当該バクテリアもヒドロゲノソームから生成されるATPをエネルギー源として得ている可能性が考えられた。しかしながら、ATPを得るだけでは寄生していることになるが、宿主であるGW7株の生育は極めて良好であり、ATPを得る代わりに宿主に対して何らかの寄与があるのではないかと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Ca. H・エンドシンビオティカスのゲノムは極めて縮退しており、機能している遺伝子の絞り込みが比較的容易であったことから、当該バクテリアの基本的な代謝様式を概ね推定することができた。宿主原生動物のヒドロゲノソームよりATPを得ているとする仮説は、リケッチアの持つ特徴のひとつであり、合理的な説明ができるものとなっている。また、当該バクテリアがATPを恒常的にヒドロゲノソームより取り込むことにより、ヒドロゲノソームの代謝が活性化される可能性もあり、この場合はヒドロゲノソームから水素を得ている共生メタン菌にとってもメリットのあることであると思われる。GW7株におけるメタン菌、Ca. H・エンドシンビオティカスとの3者間共生は、これまでに報告のない複雑な共生現象の事例となる可能性があり、ゲノム情報から得られた仮説を支持する生理学的、酵素学的な検証を進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
共生バクテリア、Ca. H・エンドシンビオティカスの機能推定については、第一に抗生物質で当該共生バクテリアを処理した際の宿主原生動物への影響を評価する予定である。また、ATP/ADPトランスロケースについては、まずは発現しているかをRT-PCRにより確認する実験を行う。発現が確認された際には、クローニングと発現を行って酵素活性の評価を行うことを検討する。 また、別の原生動物株であるトリミエマ・コンプレッサムの共生バクテリアであるTC1の機能解析を目的に、ゲノム解析の結果から推定されている、脂質ならびにイソプレノイドの合成経路を阻害剤で処理することで、宿主の生育にどのような影響があるか評価する予定である。具体的には、マラリア原虫のアピコプラストの機能解析例を参考に、脂質合成をトリクロサンもしくはチオラクトマイシンを用いて阻害するとともに、イソプレノイド合成経路をフォスミドマイシンにより阻害することを試みる。この代謝阻害実験により、これらの代謝系の宿主への寄与を直接的に検証することができると思われる。
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