2021 Fiscal Year Annual Research Report
Architectural study on ancient wooden technology that searches from the wooden boat in Egypt
Project/Area Number |
21H01520
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Higashi Nippon International University |
Principal Investigator |
柏木 裕之 東日本国際大学, エジプト考古学研究所, 客員教授 (60277762)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 古代エジプト / 木造船 / 古代木造技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はエジプト、クフ王のピラミッド南脇から発見された2隻の木造船を対象に、古代の木造技術を実証的に探るものである。2隻の船は竪坑内に解体された状態でおさめられ、盗掘被害を受けることなく埋設当時の状況を保ったまま発見された。紀元前2500年ほどの木材がほぼ完全な状態で残存する、世界的にも貴重な実物資料で、古代木造研究の進展が期待される遺構である。 2隻のうち西側の船(クフ王第2の船)は日本・エジプト合同調査隊によって2011年から本格的な調査が始められ、2020年度に全ての部材を取り上げた。研究代表者はこのプロジェクトに最初から参画し、取り上げられた部材の記録および復元案の作成に従事してきた。部材は1600点ほどを数え、一部は補強や修繕作業が行われている。これらを除いた部材について記録作業を進め、これまでに8割近くの部材を資料化した。 一連の作業により、継ぎ手や仕口等の古代の木工技術が明確になるとともに、船の全体形状も明らかとなり、隣接する東側の木造船(クフ王第1の船)との類似点、相違点も判明した。 第1の船は第2の船の比較資料として有用であるため、この調査も実施した。第1の船は現在建設中の大エジプト博物館別館に展示されることが決まり、移設作業が2021年8月に実施された。この移設にあたりエジプト政府の要請で現状記録を採る機会があり、第1の船の内部構造や細部のおさまりなどを直接観察した。第2の船の調査で新たに判明したおさまりなどを考慮すると、第1の船の復元に対し再考の必要性がある部位も判明し、2隻の調査で相乗効果が得られた。 また本研究では木造船に加えて、木棺や家具などの木製品にも着目し、その細工技術を浮かび上がらせることで、古代の木造技術を包括的に研究することを目指している。そこでダハシュール北遺跡の発掘調査で発見された木棺などを中心に細部の仕組みを研究した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルスはエジプトでも猛威を振るっていたが、予定通り現地調査を遂行できた。ただし参加予定であった研究協力者は所属先の規定で渡航できず、翌年度への繰り越しとした。翌2022年度は無事に現地で調査ができ、クフ王第2の船の部材に刻まれた文字資料の記録および分析を進めた。 研究代表者は2021年 5月から7月、9月から10月、さらに12月から翌年3月、までの計3回、70日あまり現地調査を行った。特にクフ王第2の船の部材調査では、銅製金具など木材以外の部材について詳しく観察することができた。また第2の船の船坑からは、これまでに第1の船には使われていない部材が複数発見されており、第1の船とは異なる姿の可能性が指摘されてきた。ほぼ全ての部材が取り上がったことを踏まえ、これらの部材について実測や観察を集中的に進め、おさまりや役割を想定した。 また全部材が取り上げられたことを受け、船坑の清掃と記録を実施した。船坑の下面には赤色の太い線が幾筋も確認され、岩盤を掘削する時に引かれた基準線の一つと判断された。また船坑の規模は古代エジプトで使われた基準寸法の整数倍で計画されていたことが判明した。一方で船坑の規模とそこに納めた木造船の規模は大きく異なっており、その原因や理由を考察した。 船体を構成する部材は規模が大きいため、実測には作業スペースを要し、作業時間もかかる。研究協力者の参加が叶わなかったこともあり、概略を把握する目的で、写真を利用した簡易な実測を行った。船体を構成する大型部材の写真測量と観察および略側により、船全体の規模や構造が判明し、第1の船と詳しく比較することが可能となった。 木造船の調査と並行して木棺や家具などの木製の調査も実施した。特にダハシュール北遺跡の発掘調査では埋葬室から彩色された木棺が発見され、木材の加工やおさまりなどを検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
2011年から本格的に開始されたクフ王第2の船プロジェクトは、全ての部材が取り上げられ、船坑の最終測量も完了した。一つの節目を迎えたといってよい。今後はこれまでの資料を整理、公開する作業に取り組む必要がある。 特に取り上げ作業と並行しながら行われた実測調査では、船体の大型部材は船坑の下側に並べられ、また右舷、左舷を分けて納めるなど、解体されてはいるものの、当初の船の姿を強く意識している可能性が指摘されている。船坑内の部材位置と船の形状に対応関係があったならば、それは次の課題である木造船の復元像の描出にも重要な手がかりを提供する。船坑内の部材配置を復元するとともに、部材の同定作業の結果と照らし合わせながら船坑内の配置を明らかにする計画である。 取り上げられた部材は応急的な保存措置が施され、現在も進行中である。それらを含め300点ほどが未実測であり、その作業を継続する必要がある。特に写真測量に留まり、細部が不明瞭な大型船体部材の実測と観察は喫緊の課題であり、十分な広さの作業場を確保した上で取り組みたい。 取り上げられた部材は変形や破損が著しい。特に船体の大型部材は複雑な3次元曲面を呈し、かつ複数の部材を上下左右につなぎ合わせて作られている。復元にあたっては互いの位置関係を正確に把握する必要があるが、実測作業で得られた2次元の図面資料だけで進めることは事実上不可能である。そこで実測図を基に縮小模型を作り、各部材の位置情報や左右の対応関係、船体の反りなどを復元する計画である。また合わせて船の寸法計画を分析する計画である。 船の部材には墨や刻線で数字や記号が付けられていた。部材の位置を指示する番付けと推察されるが、同じ部材に異なる数字が付されているケースがあり、船の組み立ては複数回行われた可能性が指摘される。船体部材の復元考察では改変の可能性を念頭に置きながら進めていきたい。
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