2021 Fiscal Year Annual Research Report
Study on synthesis of new substances by control of thermodynamic metastability
Project/Area Number |
21H01602
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Toyota Physical and Chemical Research Institute |
Principal Investigator |
大谷 博司 公益財団法人豊田理化学研究所, フェロー事業部門, フェロー (70176923)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 熱力学的準安定性 / 活性化エネルギー / 第一原理計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
準安定物質は,自然界にも人工物としても豊富に存在し,その多くは優れた特性を持っている.準安定物質にはたいへん大きな可能性があるが,研究室での実験はいまだに試行錯誤のプロセスに留まっている.したがって準安定物質の合成方法は,まだほとんどわかっていないと言って良い.これは準安定相が現れる本質的な理由を理解できていないことに原因がある.このような背景から,本研究では準安定性の指標となるエネルギー障壁に関する熱力学的考察と実験的検討を実施している.令和三年度は,理論合金状態図の構築の過程で見出される多数の準安定構造を合成する際の指標となるエネルギー障壁の定量化を行った.すなわち準安定物質を合成できるか否かは,生成物(母相)と反応物(目的の準安定物質)との間の反応の活性化エネルギーの大きさと外的な熱揺動によるエネルギーの関係が最も重要であることに着目し,第一原理的経路探索法を組み合わせて,活性化エネルギーの評価方法を確立した.今後はその結果に基づいて,メカニカルアロイング法で原料粉末を均一なアモルファス状態に励起し,母相を不安定化したのちに放電プラズマ焼結法を用いて焼結し,その組織と構成相の組成を検討しながら活性化エネルギーの計算値と通電による印加熱量の関係を考察する.さらに活性化エネルギーと放電プラズマ焼結法において印加する電力量の関係性について,核の成長(結晶核と母相との界面移動)の観点から考察を加える.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
目的の準安定相を作製するには,準安定構造のエネルギー準位と基底状態の自由エネルギー差の定量的評価と共に,遷移エネルギー曲線の極大値,すなわち構造遷移の活性化エネルギーの評価が重要である.そこで本研究ではこの遷移状態を擬平衡状態として,活性化エネルギーを第一原理計算によって評価した.この構造遷移では,一般に最もエネルギーロスの少ない最小エネルギー経路(Minimum Energy Path: MEP)を通ると考えられるが,これは遷移過程の始点と終点を定めて,途中の構造のエネルギーを緩和により低下させることでパスの計算が行えるので,この計算を実際の準安定構造に適用し手法の確立を行なった. 具体的には,このMEPを遷移過程の始点と終点のみから求めるNudged Elastic Band(NEB)法を適用し鞍点である活性化エネルギーを計算した.この計算において,始点のアモルファス状態は,第一原理分子動力学法によって計算されたアモルファス構造の原子配置から,目的の構造の組成と原子数を持つ領域を切り出し,これを初期構造とした.また終点に相当する目的物質は,これまで行ってきたConvex hullを用いた理論状態図から得られる熱力学的駆動力ΔGを用いてあらかじめ合成可能性の高い物質をスクリーニングすることで,その結晶構造を特定した.なおこの計算では,始点のアモルファス構造と終点の目的物質の間にマスバランスが成立している必要があるので,両者の組成と原子数を合わせる必要があることがわかった.このようにして評価された活性化エネルギーは,アモルファス状態に含まれる全原子が目的の準安定構造に変態する際に必要な励起エネルギーであり,令和三年度の研究により方法論がほぼ確立されたと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
活性化エネルギーを計算する一連の手法については昨年度の研究により方法論がほぼ確立されたので,本年度はこのような計算結果を現実の合成プロセスに適用し,その問題点を抽出する.ここで予想される課題としては,計算された活性化エネルギーは,アモルファス状態に含まれる全原子が目的の準安定構造に変態する際に必要な励起エネルギーである点である.現実の相変態では外部から熱を与えることによって核生成が生じ,母相(アモルファス)との間にできた結晶界面の移動,すなわち核の成長によって変態が進行するはずである.従って,計算により予測された活性化エネルギーと放電プラズマ焼結法において印加する電力量の間には不一致が生ずる可能性が高い.そこでここを準安定構造生成の臨界点と考えてその状況を再現するために,求めた臨界核半径に含まれる原子数を計算し,NEB計算に用いた結晶格子中の原子数との比率を用いて,臨界核の出現に伴う活性化エネルギーに換算するプロセスについて考察を行う.さらに印加電力量を種々変化させた場合の組織と構成相の組成を走査型電子顕微鏡,X線回折によって同定し,目的の準安定構造が合成されるための実験条件を調査する.
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Research Products
(8 results)