2022 Fiscal Year Annual Research Report
Surface Tension Modelling of Molten Oxides based on Relaxation Mechanism of Surface Ionic Structure
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21H01683
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
鈴木 賢紀 大阪大学, 大学院工学研究科, 准教授 (20610728)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 表面イオン構造緩和 / 軟X線吸収分光 / Polarization ion model / 架橋酸素イオン |
Outline of Annual Research Achievements |
溶融酸化物の表面張力は、高温材料プロセスの操業安定性や品質精度を左右する物性であるが、制御が非常に難しい。表面張力の値を大幅に変化させる表面イオン構造緩和の実態が未解明であり、表面構造の緩和が表面張力に及ぼす影響の定量化が未踏の課題である。 本研究の目的は、表面に特化した構造解析によって、溶融酸化物の表面構造緩和の実態を解明するとともに、表面構造緩和の各要素が表面張力に及ぼす影響度を定量的に評価し、溶融酸化物の表面張力の予測式を新たに構築することである。 本年度は、昨年度導入したガスジェット浮遊レーザ加熱装置を用いたガラス試料作製ならびに軟X線分光分析と、イオン間の分極を考慮したPolarizable Ion Modelによる分子動力学(MD)計算を行い、溶融酸化物の表面イオン配位構造を実験と計算の両面から解析する研究を行った。具体的には、Al2O3-CaO融体の表面イオン構造についてAl2O3/CaO組成比による変化に注目して、融体を急冷し、表面緩和のための熱処理を施したガラス試料に対し軟X線分光分析を行った。表面では内部に比べ、共有結合性の強い酸素4配位のAlイオン(AlO4)の存在率が高く、AlO4同士が連結し合うことで架橋酸素イオンが形成され易い傾向を確認した。Al2O3濃度が高いほど上記の傾向は顕著であった。同様の傾向は融体を対象とした表面を含む系に対するMD計算からも確認できた。したがって、Al2O3-CaO融体ではAl2O3濃度が高いほど、AlO4同士による架橋酸素イオンの形成が支配的な表面緩和形態となることを明らかにした。 また、表面活性成分であるSiO2の添加がAl2O3-CaO融体の表面イオン構造に与える影響についても研究を行った。表面では内部よりも架橋酸素イオンが形成され易いが、具体的なイオン配位形態は微量のSiO2添加でも顕著に異なることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に導入した浮遊加熱装置を稼働させ、レーザ光による局所加熱および急冷によって高融点かつ結晶化し易い組成の酸化物に対してもガラス試料を作製でき、軟X線分光分析と組み合わせて表面構造の実験的な解析を進めることができた。本年度では上記を具体的な成分系へ適用し、組成毎の表面緩和形態の変化を詳細に解明することができた。また、昨年度に引き続き、実験で扱ったのと同じ組成系の融体を対象として表面を含む場合のイオン構造のMDシミュレーションを実行し、上記の実験結果と比較することで、表面イオン構造に関して複合的な解析を行うことができた。これらは当初想定していた計画通りの成果であり、研究は概ね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、本研究で構築した実験系を用いて、溶融酸化物の表面におけるイオン配位構造の緩和機構を明らかにするための分光分析実験を実施し、別途行う計算機シミュレーションとの照合による複合的研究を実施する。特に、表面活性成分であるが架橋酸素イオンを形成しない、Na2O等アルカリ酸化物の添加が表面イオン構造へ及ぼす影響を調査する。また、複数の価数ならびに配位形態を取り得る遷移金属元素の添加が表面イオン構造に与える影響にも注目する。 ここで中距離構造に関して、現状の実験系では広い面積にわたって湾曲なく平滑な融体表面を確保できず、表面を真に反映した構造情報の取得が難しい。そこで、広い面積にわたって1ミクロンオーダーで平滑な溶融酸化物の自由表面を形成させ、高輝度X線を斜入射して、融体表面の中距離構造を反映した広角散乱プロファイルを取得するための実験系について再検討する。 また、表面緩和に起因した表面特有のイオン配位構造の形成が表面張力に及ぼす影響を定量化する取り組みも行う。具体的には、MDシミュレーションによって得た表面構造の原子配置モデルに機械学習を適用して、表面緩和に起因する数~十数個のイオンが配位したクラスター体を抽出し、第一原理計算によってイオンクラスター体の形成エネルギーを評価する。上記の表面イオンクラスター形成エネルギーを既存の表面張力推算式へ組み込み、表面緩和の影響を反映した推算式の構築を試みる。 上記の研究を進めつつ、これまでに得られた成果を学術論文等へ順次公開する計画である。
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