2021 Fiscal Year Annual Research Report
任意の電子励起固有状態に適用可能な密度汎関数理論の提案とソフトの開発・普及
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21H01877
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
大野 かおる 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 名誉教授 (40185343)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 電子励起状態 / 第一原理計算 / 準粒子理論 / GW近似 / 密度汎関数理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者が以前より提唱している任意の電子励起固有状態に適用可能な「拡張準粒子理論」(2017年の J. Chem. Phys. 誌の研究代表者第一著者論文)で、準粒子波動関数は有限のM電子系であっても無限個の占有状態が存在するという問題があったが(この問題は基底状態に対する通常の計算でも存在するものであるが)、「拡張Kohn-Sham理論」(2021年の Phys. Rev. B 誌(Letter)の研究代表者最終著者論文)でこの問題を完璧に解決することができた。この論文発表も予定通りである。得られた厳密なKohn-Sham方程式は、拡張Kohn-Sham方程式と呼ぶべきもので、解として導かれる固有状態は1に規格化されるものの、必ずしも互いに直交している必要はない。この新理論の内容を「基本法則から読み解く物理学最前線シリーズ」(共立出版)の一巻として「第一原理計算の基礎と応用」と題する単著本に執筆し、令和4年5月19日に出版予定である。これも予定通りである。また、全電子混合基底法プログラムTOMBOを用いて、X線吸収によって生じた内殻正孔を持つ高い電子励起状態を初期状態とする分子系にone-shot GW近似とBethe-Salpeter方程式の方法を適用し、共鳴非弾性X線散乱(RIXS)のスペクトル計算を行い、一切の経験パラメータ無しに実験スペクトルの再現に成功した。一方、TOMBOにおいてfull ω積分のone-shot GW近似計算の高速化・並列化を行い、富岳での計算時間が約1/4に短縮した。擬ポテンシャル平面波展開法による第一原理計算ソフトCASTEPを購入し、試験計算と計算限界に関する調査を行った。これは今後のTOMBOの改良に役立つ。昨年度末に、予定通りTOMBOのホームページを新規に立ち上げ、東北大学PCoMS主催のTOMBOセミナーを遠隔で実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本科学研究費の申請書に書いていた中嶋武氏(博士課程学生)と、もう1名との共著で、「拡張Kohn-Sham理論」に関する論文が、予定通り2021年の Phys. Rev. B 誌(Letter)に掲載された。(中嶋武氏は令和4年3月24日に横浜国立大学で博士号を取得し、令和4年4月より産業技術総合研究所のポスドク研究員となった。)また、研究代表者は、この新理論の内容を「基本法則から読み解く物理学最前線シリーズ」(共立出版)の一巻として「第一原理計算の基礎と応用」と題する単著本に執筆し、令和4年5月19日に出版予定である。これも予定通りである。さらに、研究代表者が提案する拡張準粒子理論(2017年の J. Chem. Phys. 誌の研究代表者第一著者論文)に基づくTOMBOを用いた計算として、X線吸収によって生じた内殻正孔を持つ高い電子励起状態を初期状態とする CH4, NH3, H2O, CH3OH 分子にone-shot GW近似とBethe-Salpeter方程式の方法を適用した。共鳴非弾性X線散乱(RIXS)のスペクトル計算結果は一切の経験パラメータ無しに実験スペクトルを良く再現し、研究代表者が提案している理論体系の有効性を示すことが出来たことは、本研究が順調に進展している証と言えるだろう。一方、TOMBOにおいてfull ω積分のone-shot GW近似計算の高速化・並列化を行い、富岳での計算時間が約1/4に短縮することにも成功している。擬ポテンシャル平面波展開法による第一原理計算ソフトCASTEPを購入し、試験計算と計算限界に関する調査を行ったことも、今後のTOMBOの改良に役立つものと思われる。昨年度末に、予定通りTOMBOのホームページを新規に立ち上げ、東北大学PCoMS主催のTOMBOセミナーを遠隔で実施したので、計画は予定通り順調に進行していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者が提案している「拡張Kohn-Sham理論」に基づけば、拡張準粒子波動関数は1に規格化できるが、必ずしも互いに直交しない。いわゆる one-shot GW近似は、電子励起状態を初期状態とする問題を扱う最も簡単な計算手法となる。これまで、one-shot GW近似を電子励起状態を初期状態とする系に適用して、その有効性を示してきた。今後は、自己無撞着GW近似に対しても「拡張Kohn-Sham理論」に基づく効率的な計算手法を提案していきたいと考えている。具体的には、我々がこれまで提案してきた線形化アルゴリズム(2014年の Phys. Rev. A 誌の研究代表者最終(第2)著者論文)を用いて拡張準粒子ハミルトニアンの固有値問題を一挙に解き、必ずしも互いに直交しない、1に規格化された拡張準粒子波動関数を一挙に求める。この新手法を研究代表者が独自開発してきた第一原理計算ソフトウェアTOMBOにインプリメントし、原子・分子・イオンのイオン化ポテンシャルと電子親和力の計算を行い、この新計算手法の計算結果とその方法の優位性を詳細に議論して、結果を論文投稿する。加えて、TOMBOにおいて本研究で提案する新理論に基づいて基づく任意の電子励起固有状態の計算を実行できるようなユーザーフレンドリーなプログラムの開発を目指して、CASTEPなどの既存のプログラムとの比較を行いながら、昨年度に引き続いてTOMBOの改良を行っていく。特に、TOMBOの別バージョンとして完成していた自己無撞着GWΓ法のプログラムをTOMBOの最新バージョンに移植し、オールインワンで何でも計算できるようなプログラムの完成を目指す。昨年度末に立ち上げたTOMBOのホームページを使って新情報を随時発信するとともに、セミナーや講演などで本研究で提案する新計算手法およびTOMBOの啓蒙活動を行っていく予定である。
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Research Products
(25 results)