2022 Fiscal Year Annual Research Report
任意の電子励起固有状態に適用可能な密度汎関数理論の提案とソフトの開発・普及
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21H01877
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
大野 かおる 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 名誉教授 (40185343)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 電子励起状態 / 第一原理計算 / 準粒子理論 / GW近似 / 密度汎関数理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、任意の電子励起固有状態に適用可能な「拡張準粒子理論」(2017年J. Chem. Phys.誌)と、準粒子波動 関数の規格化を保証する「拡張Kohn-Sham理論」(2021年Phys. Rev.B誌(Letter))の理論基盤に基づいている。 昨年度、予定通り、この内容を「基本法則から読み解く物理学最前線シリーズ」(共立出版)の27巻として「第一原理計算の基礎と応用」と題する本に著し、出版した。さらに、本理論に基づき、CH4, NH3, H2O, CH3OH分子に対して、内殻電子がX線吸収により外殻に励起された(深い内殻正孔を持つ)電子励起状態を初期状態として、価電子が再び内殻に落ちるX線発光過程(共鳴非弾性X線散乱)のGW+BSE計算に成功し、論文発表した(PCCP誌)。本研究で提案する新理論に基づいて基づく任意の電子励起 固有状態の計算を実行できるようなユーザーフレンドリーなプログラムOMBOの開発を目指して、CASTEPなどの既存のプログラムとの比較を行いなが ら、TOMBOのブラッシュアップを図っている。昨年度は、予定通り、TOMBOの別バージョンとして完成していた自己無撞着GWΓ法のプログラムを TOMBOの最新バージョンに移植することに成功した。また、TiO2結晶にC,Nを同時ドープすることによりバンドギャップが可視光吸収域に縮まる ことをTOMBOのGW計算で明らかにし、論文発表した(Comp. Mat. Sci.誌)。さらに、従来のGW+BSE法で無視されてきた2次の交換項の寄与を複数の分子で計算し、その効果の大きさを論文発表(Phys. Rev. B誌)、銅の金属スラブ表面付近の真空領域における誘電関数の振る舞いをTOMBOで第一原理計算し、金属表面付近の顕著な電場増強効果を明らかにし、論文発表した(J. Phys. Soc. Jpn.誌)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者は、この新理論の内容を「基本法則から読み解く物理学最前線シリーズ」(共立出版)の一巻として「第一原理計算の基礎と応用」と題する単著本に執筆し、令和4年5月30日に予定通り出版した。さらに、研究代表者が提案する拡張準粒子理論に基づくTOMBOを用いた計算として、X線吸収によって生じた内殻正孔を持つ高い電子励起状態を初期状態とする CH4, NH3, H2O, CH3OH 分子にone-shot GW近似とBethe-Salpeter方程式の方法を適用した。X線発光スペクトル(XES)とともに、共鳴非弾性X線散乱(RIXS)のスペクトルの計算結果は一切の経験パラメータ無しに実験 スペクトルを良く再現し、研究代表者が提案している理論体系の有効性を示すことが出来た。この結果は、2022年のPhys. Chem. Chem. Phys.誌の研究代表者第一著者論文として発表している。また、TiO2結晶にC,Nを同時ドープすることによりバンドギャップを可視光吸収域に縮める ことが出来ることをTOMBOのGW計算で明らかにし、2023年のComp. Mat. Sci.誌に論文発表した。さらに、従来のGW + Bethe-Salpeter方程式の計算手法で無視されてきた2次の交換項の寄与を複数の分子で計算し、その効果の大きさをPhys. Rev. B誌に論文発表した。また、銅の金属スラブ表面付近の真空領域における誘電関数の振る舞いをTOMBOで第一原理計算し、金属表面付近の顕著な電場増強効果を明らかにし、J. Phys. Soc. Jpn. 誌に論文発表した。一方、TOMBOの別バージョンとして完成していた自己無撞着GWΓ法のプログラムを TOMBOの最新バージョンに移植することにも成功したので、計画は予定通り順調に進行していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、任意の電子励起固有状態に適用可能な「拡張準粒子理論」(2017年のJ. Chem. Phys.誌の研究代表者第一著者論文)と、準粒子波動 関数の規格化を保証する「拡張Kohn-Sham理論」(2021年のPhys. Rev.B誌(Letter)の研究代表者最終著者論文)の二つの理論に基づいて、全電子混合基底法プログラムTOMBOを用いて、電子励起状態を初期状態とする様々な系の計算を行なっていきたいと考えている。特に、令和5年度には、CH4分子の光吸収によりHOMOからLUMOに電子遷移した電子励起初期状態から出発してCH3とHに分解する時間依存GW分子動力学シミュレーションを行い(計算は既に部分的に成功 している)、新理論の妥当性を検証すると共に、このシミュレーション結果を論文投稿する予定である。本研究では、本研究で提案する新理論に基づく任意の電子励起固有状態の計算を実行できるようなユーザーフレンドリーなプログラムTOMBOの完成を目指して、CASTEPなどの既存のプログラムとの比較を行いなが ら、TOMBOのブラッシュアップを随時図ってく予定である。昨年度は、予定通り、TOMBOの別バージョンとして完成していた自己無撞着GWΓ法のプログラムを TOMBOの最新バージョンに移植することに成功したので、今後も、光吸収スペクトルのGW + Bethe-Salpeter方程式(BSE)計算を結晶で行えるようにTOMBOの改良を行っていく予定である。さらに、このプログラムを同様の、不純物を含む遷移金属酸化物系やIII-V族半導体などの複雑な系に応用して 、その計算結果を論文投稿していく予定である。また、機会があるごとに、セミナーや講演などで新手法およびTOMBOの啓蒙活動を行っていきたいと考えている。
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Research Products
(13 results)