2022 Fiscal Year Annual Research Report
自己集合過程の速度論的ロックを利用した巨大ベルト状マクロサイクルの創製
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21H01948
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
酒田 陽子 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (70630630)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 自己集合 / 速度論的制御 / 金属配位結合 / 酸化還元反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、自己集合の過程で生成する中間安定な構造の結合をロックし、積極的に非平衡状態を作り出すことで、従来の熱力学的制御下では得ることが困難な自己集合型錯体の構築手法の確立を目指している。本研究で対象としているメタロナノベルトは、キレート型の中性のフェニレンジアミン配位部位とPd(II)イオンからなる錯体ユニットが結合部位となっている。この錯体は配位子を脱プロトン化した種が多段階の酸化還元応答性を示すことが知られているものの、そのようなレドックス活性なユニットを多核自己集合錯体構築における結合部位として利用した例はほとんどなかった。これは、配位子交換速度が遅く、自己集合に適していないためだと考えられるが、これまでの研究で類似の骨格を持つ錯体の配位子交換速度を見積もった例はなかった。そこで、本年度はこの脱プロトン化と酸化により生成する中性錯体の配位子交換速度を評価することで、本研究の目標となる速度論的ロックに利用可能かを検討した。水/エタノール混合溶媒中で、異なる置換基を持つフェニレンジアミン配位子と塩化ニッケルを錯形成させアンモニアを加えると、一電子酸化されたフェニレンジアミン配位子が二分子配位した中性のNi(II)錯体を得た。続いて、合成した錯体に、異なる配位子を添加したところ数時間から数日のタイムスケールで二段階のレドックスと連動した配位子交換が起こることがわかった。各段階の平衡定数を算出したところ、電子求引基を持つ配位子は配位能が小さく、電子供与性を持つ配位子は配位能が大きいことが明らかとなった。また、中性Ni(II)錯体との配位子交換との比較のために、中性のフェニレンジアミン錯体が二分子配位したカチオン性Pd(II)錯体を合成した。このPd(II)錯体の配位子交換は酸化還元反応は伴わないため、Ni(II)錯体の場合と比べて2-3桁速いことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究により、脱プロトン化および一電子酸化されたフェニレンジアミン配位子が二分子配位した中性錯体の配位子交換速度が、中性のフェニレンジアミンが二分子配位したカチオン性錯体の配位子交換速度よりも大幅に低いことが見出された。すなわち、配位子交換速度が比較的速い結合ユニットを用いて多核自己集合型錯体やその中間構造を組み上げた後に、酸化することで結合をロックできる可能性が示唆された。今後自己集合型錯体の安定性を精密に制御する上で重要な知見が得られたと考えられる。以上のように、当初の計画通りに研究は遂行できている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究により、配位子の酸化状態を変えることで、配位子交換を抑制する速度論的ロック効果があることが見出された。現状Pd(II)イオンを用いた中性錯体の単離には至っていないが、今後結合を保持したままカチオン性錯体から中性錯体に定量的に変換する方法論を開拓することで、多核自己集合型錯体やその中間構造の結合をロックさせることが可能になると考えられる。
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