2022 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of extreme phase separation formation and rubbery-to-glassy transition with elevating temperature
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21H01990
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
野々山 貴行 北海道大学, 先端生命科学研究院, 准教授 (50709251)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ハイドロゲル / ソフトマター / 相分離 / ガラス転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
熱可塑性高分子を特徴づける普遍的な性質「ガラス転移」とは逆に、低温で柔らかく、高温でガラス化する「逆のガラス転移」とも呼べる新しい熱応答性ソフトマテリアルを開発した。この材料は、汎用的な高分子であるポリアクリル酸(PAAc)を架橋したハイドロゲルを酢酸カルシウム(CaAc)水溶液中で平衡まで膨潤させることで容易に得られる。このゲルは、低温・室温では均一に水和しているが、臨界温度以上で相分離構造が形成され、昇温に伴ってさらに成長することで高分子濃厚相がガラス化する。PAAcゲル単体ではこのような温度応答性は見られないことから、PAAc-CaAcゲルにおいて塩が高分子と相互作用することで高分子の熱力学的性質を変えていると考え、金属イオン及びアニオン種が相分離及びガラス化に及ぼす影響を評価した。PAAcゲルの組成は固定して、CaAcのような種々の二価の酢酸塩を用いてゲルを作製したところ、相分離温度及びガラス化温度の変化が認められた。等温滴定カロリメトリーを用いてこれらの金属イオンと直鎖PAAcポリマーとの相互作用を会合定数Kとして定量化したところ、Kが小さいものは、相分離が弱く、ガラス化を認められなかった。逆に大きいものは、室温であっても構造を凍結させるほど高分子を強く拘束させ、熱応答性は認められない。結果として中程度の会合定数の金属イオンが逆のガラス転移に重要であることが示された。一方アニオン種においては、全てカルシウム塩として用意し、さきほどと同様にPAAcの組成は固定した。解離度が小さいの塩は、高分子との相互作用がなく、相分離を示さない。解離度が1より十分小さい塩は、塩のpKaと相分離温度は負の相関が見られた。これらの結果より、ポリマー側鎖のカルボキシル基は、金属イオンを介してアニオンと会合し、側鎖の水和状態を変化させていることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
水系のPAAcゲルについては、塩やpHがゲルの熱物性に与える影響の理解が進んでいるだけでなく、長時間の加熱により、相分離構造が動的に変化していく現象も新たに確認され、一時的な情報記憶能を持つデバイスへの応用が可能になるかもしれない。一方で、普遍性を示す上では、熱力学的な相図を示す必要があるが、実験的なデータ収集は現在進行形であり、引き続き進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
水系ゲルの理解は進んだ一方で、普遍性を示すには、より根本的に異なる高分子種を用いて材料を作製し、同様の熱物性が発現するかどうかを示す必要がある。特に、水系ゲルは乾燥して水溶媒が消失した場合は、この特異な熱物性が失われるため、社会実装を考慮すると、非乾燥系の材料が望まれる。そこで次年度は、不揮発性の低分子と熱可塑性高分子からなる温度応答性エラストマーの創製を試みる。これまでの知見をもとに、高分子はガラス転移温度が高いものを選び、低分子は揮発性が低く、かつ組み合わせる高分子と相溶性が良くも悪くもない物を選ぶ。相溶性を決めるフローリーの相互作用パラメータや溶解度パラメータは、温度依存性があり、臨界的な相溶性の組み合わせにおいて、温度応答性の相分離を発現できると考えられる。
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