2023 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21H01991
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山本 拓矢 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (30525986)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | キラルクロマトグラフィー |
Outline of Annual Research Achievements |
キラルクロマトグラフィーは、様々な不斉化合物を分離できる技術であり、天然物を含む様々なキラルな有機化合物の効率的な精製に利用されており、今日では欠かすことのできない技術の一つとなっている。しかし、キラル炭素数が増えるほど分離が困難になるため、高分子化合物へのキラルクロマトグラフィーの適用に成功した例は報告されていない。また、環状高分子は、末端を持たないために、対応する直鎖状高分子と比較して多くの特異な性質を示し、合成段階での分離精製には、サイズ排除クロマトグラフィーの他に、逆相カラムを用いた臨界条件(LCCC)での液体クロマトグラフィーが用いられる。しかし、高分子の環・直鎖の分離にキラルクロマトグラフィーを応用した前例はない。以上のことから、本研究では、キラルな直鎖および環状イソタクチックポリプロピレングリコール(PPG)を合成し、ポリマーのトポロジーと光学特性に基づく分離法の確立に挑戦した。 NMRやSEC、MALDI-TOF MSの結果から、キラリティーや末端官能基、トポロジーの違いに依らず非常に狭い分子量分散度で立体規則性の制御されたイソタクチックPPGの合成に成功した。また、キラルクロマトグラフィーの結果から、(S)-PPGよりも(R)-PPGがアミロース誘導体を固定層とするカラムに強く相互作用し、直鎖状PPGよりも環状のPPGの方が強く相互作用することを見出した。さらに、PPGの末端官能基が特にカラムの固定層と強く相互作用しており、ヒドロキシ基が特に固定層と強く相互作用している可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
キラルな直鎖状イソタクチックPPG(HO-(R)-iPPGとHO-(S)-iPPG)と環状イソタクチックPPG(c-(R)-iPPGとc-(S)-iPPG)の合成に成功した。すなわち、HO-(R)-iPPGとHO-(S)-iPPGは、バルク条件下でキラル開始剤とモノマーを用いたアニオン開環重合により合成した。また、HO-iPPGの両末端をメトキシ基で置換したMeO-iPPGとc-iPPGをHO-iPPGから合成した。得られたポリマーのキラルクロマトグラフィーを、移動相にn-ヘキサン/エタノール(100/1 v/v)、固定相に誘導体化アミロースを用いたDAICEL AS-Hカラムを用いて行い、旋光度検出器で検出した。まず、キラリティーによるPPGの保持時間の違いを調べるため、HO-(R)-iPPGとHO-(S)-iPPGを比較したところ、8.60分で正、8.07分で負の旋光度が得られ、キラルポリマーの光学分割が可能であることが示された。また、c-(R)-iPPGとc-(S)-iPPG、MeO-(R)-iPPGとMeO-(S)-iPPGを比較すると、それぞれ(R)-iPPGの方が保持時間が長いことが示された。このキラリティーによる保持時間の違いは、HO-iPPGで最も顕著であった。次に、トポロジーと末端官能基によるPPGの保持時間の違いを調べるために、HO-(R)-iPPG、MeO-(R)-iPPG、c-(R)-iPPGを比較した。その結果、それぞれの保持時間は8.60分、7.13分、7.28分であり、HO-(R)-iPPGが有意に長い保持時間を示した。つまり、OH末端基はキラルクロマトグラフィーによるPPGの分離に大きな影響を与えると考えられる。このように合成法とキラルクロマトグラフィーによる分離に成功したため、研究は概ね順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、様々な分子量や末端構造や環構造のイソタクチックおよびアタクチックPPGを合成し、多様な種類のキラルカラムや条件を検討することで、キラルクロマトグラフィーによるキラルポリマー分離法を確立する。さらに、PPG-PEG-PPGやPEG-PPG-PEGなどのトリブロック共重合体を合成し、キラルクロマトグラフィーを試みる。加えて、これらのポリマーを固体状態での評価を行うために、融解エンタルピーや結晶化度などを測定する。ここで、線状および環状PPG球晶の偏光顕微鏡観察を行い、昇温・降温時の結晶成長速度および核生成速度の測定を行い、環状構造の影響の発現に至る結晶成長過程を調べる。
|