2021 Fiscal Year Annual Research Report
特異な電子構造を有する含硫黄フェナセン系分子群の伝導特性
Project/Area Number |
21H02014
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
西原 康師 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 教授 (20282858)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡本 敏宏 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (80469931)
森 裕樹 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 研究准教授 (20723414)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 有機半導体 / フェナセン系分子 / チオフェン環 / 多環複素環分子 / 高次構造 / キャリア移動度 / 電界効果トランジスタ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度(1年目)は、フェナントロ[2,1-b:7,8-b]ジチオフェン (PDT-α) 分子中のコア部分の 2,7-位にアルキル基(CnH2n+1;n = 8, 10, 12, 13, 14)を導入した5種類に加えて、デシルチエニル基を有する2種類の誘導体の設計、合成および物理化学的性質について調査した。7種類の新規化合物に対して系統的な検討の結果、アルキル基の長さと側鎖の種類が誘導体の物理化学的性質に大きな影響を与えることがわかった。アルキル化されたPDT-α では、鎖長が長くなるにつれて溶解度が徐々に低下することがわかった。例えば、C8-PDT-α は、クロロホルムに対する溶解度が最も高かった(5.0 g/L)。また、5-デシルチエニル基で置換したPDT-α は、クロロホルムとトルエンのいずれに対しても溶解度が低く、4-デシルチエニル基で置換したPDT-α は溶解度が最も高くなることが示された。さらに、デシルチエニル基で置換したPDT-α 誘導体の紫外可視吸収スペクトルでは、レッドシフトを示し、π 共役長が拡張していることが示された。本研究により、アルキル基やデシルチエニル基の側鎖により分子コアを修飾することは、その物理化学的性質を向上させる効率的な戦略であり、高性能な有機半導体の開発につながる可能性があることを明らかにできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の1 年目において、まず、硫黄が分子長軸方向に向いた PDT-α 誘導体の合成をすることから検討を進めた。置換基としては、鎖長の異なる5種類のアルキル基の他、2 種類のデシルチエニル基を考え、これらの置換基により伝導が有利となるヘリンボーン (HB) 型構造が得られ、その長さや偶奇効果の影響を明らかにすることができた。 さらに、単結晶X線構造解析によって、いくつかの PDT-α 誘導体の結晶構造を明らかにするとともに、得られた構造情報を基に Amsterdam Density Functional (ADF) package を用いてトランスファー積分を算出することができた。 また、単結晶トランジスタ特性を評価し、パッキング構造と伝導特性との相関を調査することにより、含硫黄フェナセン系における硫黄の導入位置やアルキル基やアルキルチエニル基などを導入した多環複素環ユニットの効果を系統的に整理することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
1 年目に遂行した研究において得られた結果を基に、2 年目では、さらに π共役を拡張したフェナセン系分子の合成とそれらの分子の薄膜および単結晶FET 特性の評価をおこなっていく予定である。 π 共役を拡張することにより、骨格間の分子間相互作用が増大し、硫黄の導入位置の影響が変わることが予想される。また、以前すでにおこなった予備的な理論計算から、多環複素環分子のコア部分のπ 共役の拡張による効果を検証したところ、フェナセン系分子の硫黄が分子長軸方向に向いた α 体では HOMO と NHOMO (HOMO-1) の軌道のエネルギーレベルがそれぞれ上昇し、そのエネルギー差にほぼ変化が見られない一方、硫黄が分子短軸方向に向いた β 体では、α 体よりも HOMO と NHOMO が近接している興味深い知見が得られている。また、π 共役の拡張によって、HOMO のみが上昇するため、HOMO と NHOMO の差が変調することも期待できる。 そこで、HOMO に加えてNHOMO を伝導に寄与させるための新たな有機半導体の伝導設計を模索するために、2 年目では、新規 7 環系の多環複素環分子であるピセノジチオフェン (PiDT-α と PiDT-β) とその誘導体を合成し、π 共役系がさらに拡張されたフェナセン分子系での硫黄原子の置換位置や置換基による構造変化を詳細に調査する予定である。1 年目と同様に、結晶構造解析とトランジスタ特性の評価をおこなうが、NHOMO の伝導への寄与の可能性を考え、理論計算結果を精査する必要があると考えている。再計算の結果、NHOMO の寄与が認められた場合には、NHOMO が伝導に関与するための条件などについても、これまで合成したフェナセン系分子との比較、検討をおこなう。
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