2021 Fiscal Year Annual Research Report
水だけを溶媒とするグリーンで迅速な食品残留分析技術の創出
Project/Area Number |
21H02134
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
鎗田 孝 茨城大学, 農学部, 准教授 (20358295)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川口 研 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (50455440)
大竹 貴光 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (60443173)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 食品分析 / 残留分析 / 農薬 / 高温高圧水 |
Outline of Annual Research Achievements |
農薬などの食品残留分析には、有機溶媒を使用するがゆえに、環境への負荷や分析時間が長いなどの問題点がある。そこで本研究では、有機溶媒の代替に100 ℃以上に加熱した超高温水を使用することにより、食品残留分析をグリーン化および迅速化することを目指している。具体的には、本研究グループがこれまでに開発した超高温水抽出法(SWE)を基にして、SWEと超高温水クロマトグラフィー(SWC)をオンラインで行うオンラインSWE-SWC法(サブテーマ1)と、SWEの抽出物から分析対象成分をバイアル抽出によって抽出しさらにガスクロマトグラフィー(GC)で分析する、SWE-バイアル流出-GC法(サブテーマ2)について検討している。 サブテーマ1では、通水した超高温水中で抽出を行うダイナミックSWEによる野菜中残留農薬の抽出挙動を検討した。その結果、従来検討してきたスタティックSWEと比較して、超高温水中での農薬の分解を抑制できるため、SWEの適用可能な分析対象化合物種が拡張された。また、SWCによるビスフェノールAの分離条件を検討し、カラム:DiamondBond C18、分離温度:140~200 ℃(定温)なる条件を確立した。 一方、サブテーマ2では、有機溶媒で膨潤させたポリジメチルシロキサン(PDMS)をコーティングしたバイアルを用いて、水系試料から効率的にカルバメート系農薬を抽出・濃縮する方法を検討した。その基礎的検討として、PDMSシートを用いて、PDMSを有機溶媒で膨潤させた場合に、カルバメート系農薬の抽出効率が向上できることを明らかにした。 以上のように、本研究テーマの初年度である令和3年度は、要素技術であるSWE、SWC及びバイアル抽出法に関する基礎的検討を行った。これらの結果を基に、来年度以降は各要素技術の更なる高性能化と、分析法の複合化に取り組む予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
サブテーマ1では、まず、野菜中残留農薬を分析対象成分として、構成分析技術の一つであるSWEの抽出挙動を検討した。その際、これまでに検討したスタティックSWEではなく、通水した超高温水中で抽出を行うダイナミックSWEを検討した。一定温度で抽出を行う定温抽出による添加回収実験の結果、スタティックSWEに比べダイナミックSWEは超高温水中での農薬の分解を抑制することができた。さらに、抽出中にオーブン温度を変更する温度プログラムを適用すると、超高温水中での農薬の分解をより抑制できた。この条件において得られた分析結果を、他分析法による結果と比較することにより、本法の妥当性を確認できた。 一方、SWCについても検討した。SWEでの抽出結果が良好であったカーバメート系農薬のSWC分離を検討したが、いくつかの農薬溶出を確認することができなかった。そこで、研究計画書の実験計画に則り、残留農薬以外の化合物についてもSWC分離を検討した。その結果、ビスフェノールAについてカラム:DiamondBond C18、分離温度:140~200 ℃(定温)なる分離条件を確立した。 サブテーマ2では、バイアル抽出法の基礎検討として、PDMSシートを用いて、カーバメート系農薬の前処理法を検討した。分析対象農薬11種を含有する農薬試料溶液5 mLにPDMSシートまたはジイソプロピルエーテルで膨潤させたPDMSシートを添加し、30分間ボルテックスした。その後、PDMSシートまたは膨潤させたPDMSシートを取り出し、メタノールで逆抽出を行い、その検体をLC/MS/MSで測定した。その結果、PDMSシートと有機溶媒で膨潤させたPDMSシートを比較すると、膨潤させたPDMSシートの抽出効率は、1.2~5倍程度上昇した。本結果から、膨潤させたPDMSを用いることで、カルバメート系農薬を効率よく抽出できる可能性が示された。
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Strategy for Future Research Activity |
サブテーマ1については、SWEとSWCのオンライン化を目指し、令和4年度は両者のインターフェースとするトラップカラムについて検討する。具体的には、令和3年度にSWCで分離条件を確立したビスフェノールAを分析対象物質として、この物質を良好にトラップ及び脱離可能な充填剤を選定する。さらに、トラップカラムとSWCとのオンライン化も検討する。また、これらの検討を行うための基礎データが必要となった場合には、SWCによるビスフェノールAの保持挙動を明らかにする。 サブテーマ2については、令和3年度に良好な結果が得られたPDMSを実際にバイアル内面にコーティングすることを検討する。作成したバイアルを用いて、バイアル抽出法の詳細な条件検討を行うとともに、吸着した分析対象物質のGC/MSでの測定を試みる。また、SWEによってキャベツから抽出したカルバメート系農薬に対して、開発したバイアル抽出法を適用し、本法の有用性を確認することを予定している。
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