2023 Fiscal Year Annual Research Report
植物RNAウイルス移行タンパク質の構造解明と輸送ハブの形成機構
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21H02199
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
海道 真典 摂南大学, 農学部, 教授 (20314247)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松村 浩由 立命館大学, 生命科学部, 教授 (30324809)
竹田 篤史 立命館大学, 生命科学部, 教授 (60560779)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | RNAウイルス / 複製複合体 / 移行タンパク質 / 小胞体膜 / 細胞内輸送システム |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までの研究から、プラス鎖RNAウイルスであるRed clover necrotic mosaic virus(RCNMV)の移行タンパク質(MP)が複製複合体(VRC)と原形質連絡の両方に局在すること、構造予測ソフトによってRCNMV MP中に推定される2つのαヘリックス構造が前者との共局在に、別の1つが後者への局在に重要であることを明らかにした。 2023年度の研究では、これらの変異MPの一本鎖RNA結合能について、Electro Mobility Shift Assayによって調査した結果、いずれの変異MPも野生型MPと同程度の結合活性を有することが判明した。この結果は、これら3種の変異MPは細胞内局在性以外の性質は野生型MPと近似することを示唆しており、翻ってMPの細胞内局在の重要性を示す結果と言える。 また、VRCとの共局在性を失った変異MPを発現する組み換えRCNMV感染細胞では、VRCの指標である二本鎖RNAの細胞内局在性が変化し、二本鎖RNAを含む凝集構造が観察されなくなることを発見した。これは、MPとVRCの凝集機構が共通の細胞内輸送機構を利用することを示唆している。またMPの細胞内局在にとって重要な役割を果たすアミノ酸残基を決定した。その中にはセリンやトレオニン残基が含まれることがわかった。以前の研究から、RCNMV MPと相互作用する宿主因子の候補を多数取得し、キナーゼ関連遺伝子を中心に複数種の遺伝子をクローニング完了している。これらのうち2種のキナーゼ遺伝子をタバコ植物において、ウイルスベクターを利用してサイレンシング誘導し、さらにRCNMVをチャレンジ接種してその増殖について調べたところ、1種類のキナーゼ遺伝子のサイレンシング誘導植物でRCNMV増殖レベルがやや低下する傾向が見られた。現在この現象について確認のための実験を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は、RCNMV MPの構造予測に基づく変異体解析をさらに進めて、MPの細胞内局在性にとって重要なアミノ酸配列を決定できた。また、これらの中にリン酸化され得るアミノ酸であるセリンとトレオニンが含まれており、これらをアスパラギン酸に変えてリン酸化状態を模倣(mimic)させた変異体では局在性と細胞間移行能が一定程度復活したことから、これらのアミノ酸部位でのリン酸化によってMP機能が制御されている可能性が考えられる。まだ繰り返しの検証が必要な段階ではあるが、MPと相互作用する植物のリン酸化酵素がウイルスの増殖にとって正の効果を持つらしいことから、これらのリン酸化酵素がRCNMV MPのリン酸化を通して細胞間移行機能を制御している可能性が考えられる。このように、MPのリン酸化による機能制御の可能性と、以前の結果であるMPと相互作用する宿主因子の候補タンパク質の一つであるキナーゼがウイルス増殖に関与する可能性とが繋がる可能性が出て来たことから、研究は概ね順調に進んでいると言える。また本年度は新たにこの研究に関連するテーマで4人の4回生が既に研究を開始しており、人手の点も問題ないと言える状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
RCNMV MPと結合する因子として単離された4種類のキナーゼ遺伝子がRCNMVの増殖に及ぼす影響について、詳細に調べる予定である。影響が見られた場合には、in vivoでの二分子蛍光補完法(BiFC)実験によってキナーゼとMPとの結合性と細胞内局在について調査する。またそれらがMPのリン酸化に影響するか否かについて、リン酸化部位への抗体を用いて詳細に解析する。 また、RCNMV MPの結晶化条件について、大腸菌やその他宿主の培養・発現条件の検討を進める予定である。 近年、これまで見過ごされてきた30~50アミノ酸程度の「隠された」ウイルス遺伝子が実際に発現し、ウイルスの増殖や病徴の発現に重要な役割を果たしているという報告が幾つかなされている。RCNMVのゲノム中には、多数の20~40アミノ酸程度の小さなペプチドをコードするOpen Reading Frame(ORF)が存在することが、塩基配列の解読によって明らかとなっている。今年度は、これらの開始コドンに変異を導入(これらと重なりあうRCNMV遺伝子産物のアミノ酸配列に変化をもたらさないよう注意しつつ)した変異ウイルスを作製し、宿主植物への感染性や病徴発現への変化について調べる。 また、RCNMVと同科のカーネーション斑紋ウイルスの移行機構についても、MP遺伝子の開始コドンに変異を導入し、且つ小胞体局在シグナルを付加した蛍光タンパク質を発現する組み換えウイルスのcDNAの作製を完了した。これらの移行機構および複製との相関についても引き続き調査を続ける予定である。
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