2021 Fiscal Year Annual Research Report
根室海峡におけるシャチの若齢個体加入状況に関する研究
Project/Area Number |
21H02217
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
大泉 宏 東海大学, 海洋学部, 教授 (30366009)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中原 史生 常磐大学, 人間科学部, 教授 (10326811)
吉岡 基 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (30262992)
北 夕紀 東海大学, 生物学部, 准教授 (30710917)
三谷 曜子 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (40538279)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | シャチ / 北海道東部海域 / 加入状況 / 個体識別 / フォトグラメトリー / 呼気飛沫由来DNA |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究の初年度にあたり、目的の達成に必要な基本的な情報整理と方法論の確立を目標とした。よって、まずシャチの加入状況の把握のために仔の写真精査を過去に遡って行い、個体識別登録した。また5月に6日間の現地調査を行ってドローンによる空撮、録音、個体識別写真撮影、試験的な呼気飛沫採取、環境水採取を行った。ドローンで撮影される画像からはフォトグラメトリーによるシャチの体サイズ計測を行って栄養状態の指標になるボディコンディションを推定する方法を検討した。その結果、比較的正確なサイズ計測には成功したが、評価の基準を得ることができず今後の課題を残した。さらに今年度は正確なサイズの絶対値計測が可能な測量用ドローンの導入が調査時期に間に合わなかったので、成長の分析については来年度以降の開始となった。また、血縁関係の把握に必要になるDNA標本採取を非侵襲的に行うため、呼気飛沫採取の試みを行った。しかし、調査現場で試験的に行った方法で得られた呼気飛沫の分析からはシャチ由来のDNAを得ることができず、方法論の再検討が必要となった。来年度は飼育下のシャチから呼気飛沫の採取実験を条件を変えて行い、フィールドでも採取可能な方法の検討を行う。また、今年度の調査でも複数の仔が確認され、新たに個体識別登録された。本年度の調査と既存情報整理の結果、2016年度以降に計57個体の仔が発見されていたことが分かり、データベースに登録された。今後はこれらの仔の再発見、新規の仔の発見データから加入状況を検討していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査:5月10日から14日に根室海峡で小型船をチャーター、15日に観光船便乗により現地調査を行った。その結果、のべ6群56頭のシャチが発見された。ドローンによる空撮、録音、個体識別写真撮影、試験的な呼気飛沫採取、環境水採取を行った。 個体識別:2016年から2019年までの調査結果から52個体の仔が識別された。また、本年度調査の結果から計33個体が識別され、その内に新規の仔が5頭、再発見の仔が1頭含まれていた。 成長:ドローンで撮影した画像からフォトグラメトリーによるシャチのボディコンディション評価について、方法論を検討した。のべ108枚の写真から得られた測定値を複数の方法で比較した結果、精度良く体幅の比率を推定する方法が明らかになり、個体の栄養状態評価を行うために必要になる指標が得られることがわかった。しかし評価を決める基準については十分な情報を得ることはできなかった。これに関して学会発表を行った。 DNA: 全長7mまで伸長可能なBi Rod (一脚) にビニールテープでクリップを接着し、滅菌ガーゼをクリップどめすることで呼気飛沫採取棒を作成した。洋上でシャチが噴気を挙げた際に呼気飛沫採取棒にて呼気飛沫採取を試み、5月10日から14日間の5日間にて合計12サンプルを得た。滅菌ガーゼはRNAlaterを浸透後、宿泊施設にて冷凍保存し、最終日である5月14日に東海大学生物学部海洋生物科学科に冷凍輸送を行った。DNeasy Blood & Tissue Kit (QIAGEN) を使用し、抽出を試みたが、シャチ由来DNAの増幅には至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
調査:調査日数を増加させることが望ましいが、高額な調査船チャーター料金をまかなう必要があるので、その方法を検討する。調査自体は今後も同様に継続してデータ蓄積を図る。 個体識別:調査で必ずしも既知の仔を毎年再発見できるとは限らないので、仔の加入状況を明らかにするという目標を達成するためには複数年にわたるデータの蓄積が必要になる。よって来年度は特に仔のデータ蓄積をはかるという方針を維持する。 成長:本年度使用したドローンは高度を正確に記録できず、画像上の測定値は相対的な値であった。よって体幅比率によるボディコンディション評価の方法しか検討できなかった。今年度の調査には間に合わなかったが正確な高度測定が期待できる測量用ドローン(RTKドローン)を導入したので来年は調査現場で運用するための試験を行う。そのため、電子基準点からの距離による制限、測定精度、船舶からの運用手順等の検証を行い、体長等の絶対値測定方法を検討する。 DNA: 呼気飛沫採取は、50mlチューブ、滅菌シャーレ、滅菌ガーゼなど採取媒体の検討や、フィールドで採取後に迅速にDNA抽出を行えないことから、媒体採取後の保存液の検討、さらには精度の高いDNA抽出用キットの検討など、方法論から見直す必要があると示唆された。したがって、2022年度は飼育下シャチにて0mをコントロールとし、1m、2m、3m、4mなど呼吸孔からの採取高度を複数設定し、実験を行っていく予定である。まずは、飼育下にて確実にシャチ由来DNAの獲得を目指す。
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Research Products
(2 results)