2021 Fiscal Year Annual Research Report
光合成の初発反応における励起・電荷分離の反応機構解明
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21H02447
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
杉浦 美羽 愛媛大学, プロテオサイエンスセンター, 准教授 (80312255)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長澤 裕 立命館大学, 生命科学部, 教授 (50294161)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 光化学系II / 光励起 / 電荷分離 / P680 / 分光測定 / 光合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
光合成における励起・電荷分離の反応過程を解明するために、初年度は、まずこれらの反応に関わると考えられる4分子クロロフィルのリガンドを変えるようにデザインした8つの好熱性シアノバクテリア Thermosynechococcus elongatusの遺伝子組換え体の作製を試みた。これらのうちの得られた組換え体を大量培養し、測定試料に用いるために光化学系II (PSII) を精製した。得られたPSII試料について、light minus dark差可視吸収スペクトルを77 Kで測定することによって、それぞれのクロロフィルの吸収波長の同定を試みた。4分子のうちの2分子については同定できたが、残る2分子については完全に分離することができず、課題として残っている。また、光合成機能を評価するために水の酸化活性を測定して、クロロフィルのリガンド置換によるPSIIの水の酸化触媒Mn4O5Caクラスターへの影響が無いことを確認した。 これらの組換え体PSIIの超高速分光測定法を確立するために、再生増幅型のTi:sapphireレーザーで励起した非同軸型光パラメトリック増幅器 (OPA) を用い、野生型のPSIIについてフェムト秒時間分解過渡吸収 (TRTA) スペクトル測定を行った。OPAは2台使用し、そのうち1台はTRTA観測用の白色光発生用とし、もう一台は励起光発生用とした。この実験では、PSII中の特異なβカロテンを励起する必要があり、OPAの短波長側の発振限界に近い510 nmで安定に光励起できるようOPAの設定を改善した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度にデザインした好熱性シアノバクテリアの遺伝子組換え体8つのうち、6つは完成できたが、残る2つについては現在進行中である。完成できなかった理由が、これらの変異が光合成機能に大きな影響があるせいだと考えられる。そのため、糖を取り込んで別の代謝経路でATP合成して生育できるようにまず、宿主細胞の組換え体を作製した。これらの細胞に目的の組換えを施しているため、今年度中には完成できなかったが、順調に進んでおり、2年目には完成が期待できる。light minus dark差可視吸収スペクトルを77 Kで測定することによって、それぞれのクロロフィル (Chl) の吸収波長の同定を試みたところ、数回測定したところで機器を低温化するのに必要な部品の真空化に問題が生じ、年度途中で修理に出すことになってしまった。そのため、当初予定していた4つのChlの波長同定のうちの2つに留まっている。年度末に修理から戻ってきたため、次年度には完成させたい。 一方、超高速分光測定では、OPAの510nmでの発振を安定化させることに成功した。そのため、PSII中の多量のChl分子の吸収帯が重なった660 nmから700 nmの波長領域で精密なTRTAスペクトル測定が可能となり、電子移動に関与したChl分子からの信号を抽出することに成功した。その結果、遺伝子操作によりChlに配位するアミノ酸残基を入れ替えた複数のサンプルについて、微小なスペクトル変化の観測が可能となり、電子や正孔が反応中心内でどのように分布するか判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に得られた組換え体については、予定通り、まず低温吸収スペクトル測定を行って4分子Chl全ての極大吸収波長を同定する。初年度に低温化に関わる機器の故障・修理があったが、現在は順調に作動している。更に、これらの組換え体PSIIのP680の酸化還元電位を熱発光測定によって評価し、リガンドの置換による電位への影響を明らかにする。更に、初年度に分担者が確立した超高速分光測定装置を用いて、組換え体の測定を行う。とはいえ、現在のOPAの短波長側の発振限界は510 nm付近であるので、今後はさらに短波長側の安定発振が可能となるよう測定システムを改良する。そのためには、近赤外の900~1000 nm付近でOPAを発振させ、第二高調波発生により、450~500 nmの短波長光に変換する。このように改良したTRTAスペクトル測定システムを用い、PSIIの光合成初期過程だけではなく、その他の有機化合物の光化学反応(インジゴやヘミインジゴ誘導体の光異性化反応等)についても解明していく。
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Research Products
(4 results)