2022 Fiscal Year Annual Research Report
発育時期に特異的なPI3K-Aktシグナルを制御する分子機構の解析
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21H02495
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
西村 隆史 群馬大学, 生体調節研究所, 教授 (90568099)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | インスリン / PI3K-Aktシグナル / ショウジョウバエ / 性成熟 / 器官間相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、ショウジョウバエ幼虫の成長期から成熟期への進行に伴う、脂肪体PI3K-Aktシグナル伝達経路を制御する受容体型チロシンキナーゼ(RTK)と器官間相互作用システムの再編成を解明することである。様々な末梢組織におけるPI3K-Aktシグナル伝達経路は、体液を循環するインスリンの作用で制御されていると考えられている。一方、代表者らは、脂肪体に蓄積されるグリコーゲンを指標にして、PI3K-Aktシグナル伝達経路を制御するRTKを再評価したところ、成長期に機能するRTKは、従来考えられていたインスリン受容体ではなく、Egf受容体であることを明らかにした。また、Egf受容体はグリコーゲン生合成のみならず、PI3K-Aktシグナルを介して細胞成長や脂肪蓄積など広範囲に細胞の生理機能を制御していることを明らかにした。 2022年度は、脂肪体のPI3K-Aktシグナル伝達経路を制御する主なEgfリガンドの由来と種類の解明を試みた。成長期におけるインスリン受容体の機能を組織ごとに再評価したところ、筋肉組織でインスリン受容体の発現抑制を行うと、脂肪体のPI3K-Aktシグナルが減少することが明らかになった。よって、脂肪体で機能するEgf受容体のリガンドは筋肉に由来している可能性が考えられた。また、筋肉でインスリン受容体の発現抑制を行うと、複数のEgfリガンドの発現が減少した。そこで、筋肉組織で候補となるEgfリガンドの発現抑制を行ったが、顕著な表現型が観察されなかった。よって、複数のEgfリガンドが重複して機能している可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
脂肪体PI3K-Aktシグナル伝達経路を制御する器官間相互作用の理解が深まったため、当初の予定通りに研究が進んでいると判断した。
また、研究の過程で、インスリン受容体の細胞外領域に挿入された温度感受性点変異体を新たに同定した。この変異体は、飼育温度に依存して末梢組織におけるPI3K-Aktシグナル伝達経路が減弱した。また、変異体では、グリコーゲンの減少に加えて、解糖系やTCA回路の中間代謝物が上昇するだけではなく、アミノ酸やヌクレオチドなど、広範囲な代謝物の変化が起こることを明らかにした。これらの研究結果を論文にまとめて、誌上発表した(Banzai and Nishimura, Development, 2023)。この温度感受性変異体を使用することで、任意のライフステージでPI3K-Aktシグナル伝達経路を操作することが可能になった。
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Strategy for Future Research Activity |
成長期の脂肪体PI3K-Aktシグナル伝達経路を制御するEgf受容体のリガンドは筋肉に由来している可能性が考えられた。そこで、筋肉組織で発現するEgfリガンドが、脂肪体のEgf受容体に作用しているかどうか、遺伝学的な解析と共に、組織培養などの実験系を用いて検討する。また、幼虫の体液中にEgfリガンドが検出されるかどうか、質量分析装置を用いて検討する。さらに、筋肉組織で発現するEgfリガンドの発現や分泌を制御する上流シグナルに着目し、成長期と成熟期でのEgfリガンドの発現レベルなど、発育ステージにおける差異を検討する。 一方、成熟期に入ると、脂肪体で発現するインスリン受容体が組織自律的に重要になる。成長期と成熟期でPI3K-Aktシグナルを制御する上流シグナルが変遷する仕組みを明らかにする。具体的には、成熟期に入ると脂肪体で発現が上昇するインスリンの関与を検討する。また、新たに同定したインスリン受容体の温度感受性点変異体を用いることで、発育時期に特異的なインスリンシグナルを制御することの生理的な意義を検討する。
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