2021 Fiscal Year Annual Research Report
父親が単独で仔育てを行う特殊な亜社会性システムの進化・維持機構の解明
Project/Area Number |
21H02550
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鈴木 智也 京都大学, 地球環境学堂, 特定研究員 (30739503)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大庭 伸也 長崎大学, 教育学部, 准教授 (20638481)
東城 幸治 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (30377618)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | コオイムシ / 父育 / Paternal care / 繁殖戦略 / 昆虫 |
Outline of Annual Research Achievements |
DNAは生物の設計図であり、個々の生物にとってDNAを次世代に受け渡すことは最も重要な生命の根源的な役割であると言える。多様な繁殖戦略の中でも「子育て行動」は直接的に仔の世話を行うことで適応度を高める行動であり、とくに少産の動物種群で進化してきた。子育て行動を行うのは多くの場合がメスのみであり、また、オスが子育てに参加する場合であっても、メスとの共同作業であるケースがほとんどである。これは、オスとメスでは配偶子形成に掛かるコストに差があり、オスの方が圧倒的に低コストで大量の配偶子 (精子) を形成することができるため、多くの場合において、オスは仔の世話に投資するよりも出来るだけ多くのメスと交尾するための投資をする方が適応的であるためだと考えられている。しかし、そのような状況下であってもオス単独での子育て行動が進化した分類群もあり、この行動は「父育」と呼ばれている。本研究では、父育を行う昆虫・コオイムシを材料にして父親が単独で仔育てを行う特殊な亜社会性システムの進化・維持機構を追究する。 研究代表者らは、油性マーカーで個体識別した20ペアのコオイムシを1ヶ月間、飼育ケージ内で自由交配させ、その後、各オスが保護した卵 (仔) と保護オスの血縁関係をSSRマーカーによって確認した。その結果、ほぼ全ての雌雄が複数の相手と交配し、子孫を残しており、極めて激しい乱婚状態であることが明らかとなった。また、オスは多くの卵を背負う個体から全く卵を背負わない個体まで確認され、オスが背負う卵数は個体間で幅広い個体差がみられた。興味深いのは、実験期間中に一度も卵塊を背負わなかったオスもしっかりと自身の仔を残していたという点である。この結果については既に投稿論文の準備を進めており、今年度はこれに加えてコオイムシのドラフトゲノムの解読にも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は研究計画1年目であるが、コオイムシ類の父育システムは雌雄の複雑な利害関係が絡み合って成立しており、その結果、「オスの托卵行動」という極めてユニークな戦略が進化してきたことまで明らかになってきた。多様な繁殖システムを進化させてきた動物類においても、「オスの托卵」現象の実証は世界で初めてのことである。また、本研究課題で得られたデータは、これまで考えられてきた動物の父育行動の進化・維持機構の定説を覆す、重要かつ新規的な知見であると言える。この結果は既に投稿論文として準備を整えており、大きなインパクトを与えられるものと考えている。さらに、本研究計画では父育行動進化の遺伝的基盤にも迫る予定であるが、計画初年度で既に次世代シーケンサーを利用したコオイムシのドラフトゲノム情報の取得を済ませることができた。以上のことから、本研究課題は当初の計画以上に順調に進展しているものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は取得したコオイムシのゲノム情報を基に、父育行動決定遺伝子探索を実施していくほか、「オスの托卵」行動の観察を実施する予定である。
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