2023 Fiscal Year Annual Research Report
火山性酸性河川の列島縦断調査による地表化学合成生態系の成立条件解明
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21H02561
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
岩田 智也 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (50362075)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
谷田 一三 地方独立行政法人大阪市博物館機構(大阪市立美術館、大阪市立自然史博物館、大阪市立東洋陶磁美術館、大阪, 大阪市立自然史博物館, 外来研究員 (20167505)
野田 悟子 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (80342830)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 火山性酸性河川 / 化学合成生態系 / 水生昆虫 / 共生 / 食物網 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、主に北海道から九州の20の火山性河川(大雪山、ニセコ、恵山、秋田焼山、妙高、白山、万座、浅間山、八ヶ岳、九重)において広域縦断調査を実施した。調査の結果、硫化水素濃度の高い酸性河川において、ユスリカ属(サンユスリカに近縁なグループ)やオナシカワゲラ科の数種(スカユオナシカワゲラ、アサカワオナシカワゲラ、コウノオナシカワゲラ)が高密度に生息している地域を数ヶ所発見することができた。研究計画時の仮説通り、高水温環境ではユスリカ属が、低水温環境ではオナシカワゲラ科が優占する傾向があり、さらにオナシカワゲラ科の3種やユスリカ属の複数種などの近縁種同士は同所的に高密度に分布することがほとんどないことも明らかとなった。このことから、酸性河川においては物理化学要因または生態的要因によって各種の分布が強く制限されており、そのことが特徴的な酸性河川群集の形成に深く関わっていると考えられた。さらに、白山や大雪地域の酸性河川では河床に堆積した硫黄華上に水生昆虫群集が生息しており、化学合成独立栄養微生物による有機物生産によって水生昆虫群集や周囲の河畔動物群集が支えられていると考えられた。現在、微生物群集解析に加え安定同位体分析および脂肪酸分析による検証を行なっている。また、秋田県玉川温泉で実施した定期調査ではスカユオナシカワゲラの生活史と発生・成長過程の詳細が明らかとなり、きわめて限定的な生息環境において個体群を維持していることも明らかとなった。現在は安定同位体および脂肪酸分析を用いた食物網解析を進めており、これらのデータを統合して日本列島に広域的にみられる地表化学合成生態系の存立基盤の全容解明を目指す予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症拡大による調査の遅れが現在まで続いており、2021-2023年度の3ヵ年で実施予定であった調査地を2022-2023年度の2年間で集中的に調査を行なうこととなった。2023年度には悪天候による再調査等があったものの、九州から北海道までの多地点で精力的に野外調査を行うことができ、年度末時点でほぼ計画通りの調査を完了することができている。一方で、短期間で多くの調査を行なったことから、サンプル分析に予定以上の時間を要している。そのため、データ解析および成果のとりまとめが遅れており、2023年度においても進捗状況はやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度には、これまでの広域調査でカバーできていなかった東北、中部、九州地域の複数河川において野外調査を補完的に実施する予定である。また、生物群集の広域パターンを裏付けるデータを取得するために微生息場所分析および培養実験も行い、これまでの研究で不足していた知見を得る予定である。最も進捗が遅れている安定同位体分析と脂肪酸分析については、研究協力学生の学位論文課題として位置付け、効率的かつ迅速に作業を進めていく予定である。また、今年度中にはデータ解析も同時に推し進め、年度内には複数の学術論文の投稿を行う予定である。
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Research Products
(3 results)