2021 Fiscal Year Annual Research Report
フユシャク類にみられる平行種分化とゲノムの構造不安定性
Project/Area Number |
21H02563
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
山本 哲史 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境研究部門, 研究員 (10643257)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
曽田 貞滋 京都大学, 理学研究科, 教授 (00192625)
池田 紘士 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (00508880)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 季節適応 / 進化ゲノミクス / フユシャク |
Outline of Annual Research Achievements |
地理的に離れた場所であっても互いに似た環境では同じ形質が進化する。これは平行進化現象と呼ばれ、生物進化がランダムではなく、自然選択によって進化したことを示す強い証拠である。自然選択は、同じ形質が繰り返し進化することを説明するが、その根底には同じ形質を実現するための遺伝的変異が生じる必要がある。本課題では、ウスバフユシャク属で繁殖期の大幅な変更が繰り返し生じた原因にアプローチする。冬季に繁殖を行う蛾類であるウスバフユシャク属では、初冬期に繁殖する初冬型の種と、晩冬期に繁殖する晩冬型の持つ種に分けられる。場所によっては、初冬型と晩冬型の繁殖期は最大5ヶ月から6ヶ月もの違いがある(初冬型は11月ごろ、晩冬型は4月ごろ)。同一種内に初冬型と晩冬型の両方がある種においても、同所的なこれら2タイプ間に生殖隔離があることから、生活史の分化は種分化の原因となることがわかっている。また、ウスバフユシャク属の系統解析から、属内の種分化イベントの少なくとも25%に初冬型と晩冬型の分化が関与していることがわかっており、生活史の分化がウスバフユシャク属を多様化させたと考えられる。 ウスバフユシャク属のなかでクロテンフユシャクは種内に初冬型と晩冬型の集団が分化おり、北日本と南日本において独立に初冬型と晩冬型が分化していることがわかっている。これまでに晩冬型のリファレンスゲノムを構築し、南北日本の初冬型と晩冬型のゲノムを比較した。羽化時期の決定に関わっていると思われる遺伝子領域では、同一地域の個体が近縁とはならず、異なる地域どうしでも同じ羽化時期の個体が近縁となった。このことから、クロテンフユシャク種内における平行的な羽化時期分化の背景として、南北日本の地域集団間で羽化時期関連遺伝子の適応的浸透が起こったことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでにウスバフユシャク属内で平行的に羽化時期が分化している姉妹ペアは、日本国内だけで3ペアが分布する。その全てについて新規ゲノム解析を実施した。3ペアのうち2ペアはクロテンフユシャク種内で生じた初冬型と晩冬型のペアであり、北日本と南日本に分布する。さらに本種には、初冬と晩冬に分離せず、連続的に長く羽化時期が継続する集団もある。この連続的羽化集団を材料にGWASにより羽化時期関連遺伝子群を特定した。また、南北日本の地域集団間で羽化時期関連遺伝子群の浸透が生じた結果として、クロテンフユシャク種内における平行的な羽化時期分化が促進されたことがわかった。 また、3ペアのうち残り1ペアの近縁な2種についてもドラフトゲノムを構築した。
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Strategy for Future Research Activity |
ウスモンフユシャクとホソウスバフユシャクのペアについては、羽化時期を決定する遺伝子領域は未解明である。今後はクロテンフユシャクで明らかになった遺伝子を中心に、ウスモンフユシャクやホソウスバフユシャクで羽化時期に関連しているかどうかを検討していく。現状では、これら2種のリファレンスゲノムの精度の問題で染色体構造変異などを検討することが難しい状況である。そのため、連鎖地図解析などを行って、染色体スケールのリファレンスゲノムを構築することを検討する。
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