2021 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of pathogenic mechanisms of neurodevelopmental disorders caused by disruption of pH homeostasis
Project/Area Number |
21H02821
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
若月 修二 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第五部, 室長 (00378887)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 神経発達障害 / 自閉スペクトラム症 / 蛋白質分解 / 細胞内pH |
Outline of Annual Research Achievements |
ナトリウム・プロトン交換輸送体NHE5は神経細胞に偏在するpH調節分子であり、脳を始めとする神経組織のpHホメオスタシスに深く関与する。これまでの研究で、NHE5遺伝子欠損マウス(NHE5 KO)が社会性・コミュニケーション障害、知的障害など、特徴的な自閉スペクトラム症(ASD, Autism spectrum disorder)様の行動フェノタイプを示すことを見出している。本研究ではこれらを手がかりに、脳内pHホメオスタシスの変容とASDを始めとする神経発達障害の発病との因果関係を明確にするため、具体的には、NHE5遺 KOおよび複数の動物モデルの性状解析と、これらのモデル動物への介入実験による症状改善効果を、細胞生物学、神経科学、行動生理学の観点から総合的に評価・検討し、その成果に基づいた疾患の新しい治療法の分子基盤の確立を目指して開始された。 本年度は、NHE5 KOの行動フェノタイプを規定する神経ネットワークの活動変化を調べるため、海馬スライスを用いた電気生理学的解析を行った。また、NHE5蛋白の分解制御メカニズムについて詳しく調べ、プロテアソームによる分解制御メカニズムを明らかにした。 一方、神経ネットワーク形成は神経突起の伸長・崩壊によって制御されることが知られている。上記に加えて、本年度は突起変性の鍵分子として同定したユビキチンリガーゼZNRF1の活性制御メカニズムについて調べ、変性開始とともに突起に生じる活性酸素種により活発になる細胞内反応がZNRF1を巧妙に調節し、突起変性を促進することを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は実験モデル動物として主としてマウスを使用する。 コロナ禍にあって、当初、マウスの飼育制限などによる進捗への影響を想定したが、所属機関の飼育施設関係者の尽力もあり、研究実施への障害はほとんど認められなかった。そのため、計画した実験のほとんどを滞りなく進めることができた。 これらの理由から、上記の進捗状況となった。
|
Strategy for Future Research Activity |
NHEは細胞膜や細胞小器官膜を通過するナトリウムとプロトンの逆方向への輸送を触媒し、細胞のpHホメオスタシスを調節する。これまでに、NHEファミリーのひとつであるNHE5が膜小胞内腔のpH調節を介して神経細胞のオートファジー活性を制御することを見出している(Togashi and Wakatsuki et al. PLoS One. 2013)。NHE5遺伝子欠損マウス(NHE5 KO)由来の大脳皮質神経細胞では膜小胞内腔がアルカリ化してオートファジー活性が低下して、シナプス構成蛋白のターンオーバーが低下し、脳では幼若な構造を持つシナプス数が増加する。このような形態的な変化に呼応して、NHE5 KOは社会性やコミュニケーションの質的な障害、知的障害など、特徴的なASD様行動フェノタイプを示す。これらの結果から、脳内pHホメオスタシスの変容は神経発達障害のフェノタイプ発現と密接に関連するのではないか、と考えられる。本研究では、神経細胞のオートファジー活性調節におけるNHE5の生理的役割を背景に、神経発達障害の新たな発病メカニズムを明らかにするため、以下に示す実験を計画する。 ①NHE5蛋白の分解制御メカニズムの解明 ②膜小胞内腔pHホメオスタシスにおけるNHE5の機能的役割 ③興奮性・抑制性シナプスの免疫染色・電子顕微鏡観察による定量的解析 ④臨界期:NHE5欠損が神経ネットワークに与える影響の限界を探る 上記の個別の研究を通じ、脳内pHホメオスタシスの変容と神経機能の破綻とを結ぶ新たな分子基盤を解明することで、神経発達障害の新しい創薬標的の提示、発症抑制や病態緩和の実現など、従来にない治療法の開発につなげる。
|
Research Products
(8 results)