2022 Fiscal Year Annual Research Report
ハイブリッド療法による大腸がん治療抵抗性メカニズムの克服
Project/Area Number |
21H02902
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中西 祐貴 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (40838679)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
妹尾 浩 京都大学, 医学研究科, 教授 (90335266)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 大腸がん |
Outline of Annual Research Achievements |
大腸がんは、本邦のがん罹患の第1位、がん死の第2位を占める。近年注目されるがん免疫療法は複数の癌腫において有効性が確認されているが、大腸がんにおいてはごく一部の症例でしか奏功せず、治療抵抗性メカニズムの解明および新規治療ストラテジーの樹立が強く期待されている。特に、「間質反応・線維化・がん幹細胞」を特徴とする高悪性度大腸がんは、がん免疫療法に抵抗性である。今回申請者らは予備検討から、がん幹細胞が”don’t eat me”シグナル CD47を発現することでがんの免疫原性を低下させ、間質がTHBS1を高発現することで線維化による免疫細胞排除をきたす、という二重の機構でがん免疫が抑制されるとの構想に至った。本研究の目的は、この防御機構の同時阻害によりがん免疫療法抵抗性を克服する新規ストラテジーを構築することである。これを検討するため、以下の実験を実施する。1)自然発生大腸がんモデルApcMinマウスの腫瘍中において、がん幹細胞特異的にCD47を阻害し、がん幹細胞の免疫原性の評価と腫瘍フェノタイプの変化を検討する2)高悪性度がんモデルであるmouse tumor organoid (MTO)を用い、CD47の阻害が、がんの浸潤・転移に及ぼす影響を評価する。3)THBS1全身KOマウスへMTO直腸同所移植実験を行い、間質におけるTHBS1の阻害が、抗腫瘍免疫、線維化、血管新生に与える影響を評価する。 以上の実験を通じ、がん幹細胞特異的CD47阻害と間質特異的THBS1阻害の「ハイブリッド療法」により、がん免疫抑制が解除され、抗腫瘍効果が得られるかを検討する。本研究により、高悪性度がんに対する、がん幹細胞・間質双方を標的とした新規治療法の開発に繋げる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、以下の1)から3)の実験を予定しており、本年度は概ね順調に進行している。各項目における進捗状況は以下の通りである。 1)自然発生腸腫瘍におけるがん幹細胞特異的CD47阻害:Apc変異導入により腸腫瘍を自然発生する代表的大腸がんモデルApcMinマウスを用いて、がん幹細胞特異的にCD47を阻害し、がん幹細胞の免疫原性を評価した。ApcMin;DCLK1-CreERT2-EGFP;CD47f/fマウスにタモキシフェンを投与し、DCLK1陽性がん幹細胞特異的にCD47を阻害し、腸腫瘍の数・サイズの変化を測定したところ、少数例での検討ではあるものの、CD47阻害単独で軽度の腫瘍抑制効果が確認できている。 2)浸潤・転移におけるがん幹細胞特異的CD47阻害:がん幹細胞特異的に4種の遺伝子変異(Apc, Kras, Trp53, Tgfbr2)を導入し、高悪性度のCMS4モデルとして好適かつ移植・転移実験も可能なmouse tumor organoid (MTO; Nature, 2018)を用いた移植実験を行っている。さらに、転移巣から樹立し、DCLK1, CD47を高発現するMTOを用いて移植実験において、CD47の阻害が、がんの浸潤・転移に及ぼす影響を評価している。CD47阻害剤の使用により、腫瘍サイズには差が認められなかったが、肝・リンパ節転移の頻度に関してやや減少していることが確認できた。 3)THBS1阻害による線維化・血管新生への効果:THBS1 total KOマウスへMTO直腸同所移植実験を行い、間質におけるTHBS1の阻害が抗腫瘍免疫、線維化、血管新生に与える影響を評価した。原発の腫瘍サイズに著変は認めなかったが、リンパ節・肝転移形成において著明な減少が確認できている。
|
Strategy for Future Research Activity |
1)から3)の各項目につき、以下のような研究推進方策を予定している。 1)自然発生腸腫瘍におけるがん幹細胞特異的CD47阻害:前年度に引き続き、ApcMin;DCLK1-CreERT2-EGFP;CD47f/fマウスを用いて、DCLK1陽性がん幹細胞特異的にCD47を阻害することによる、腸腫瘍の数・サイズの変化の測定を継続する。少数例での検討では、軽度ではあるがCD47阻害による腫瘍抑制効果が確認できており、今後さらにnを増やして、統計学的検討を進めていく。また、FACSで免疫細胞浸潤、サイトカインの変化を調べ、免疫フェノタイプの評価も進めていく。 2)浸潤・転移におけるがん幹細胞特異的CD47阻害:高悪性度のMTO移植モデルを用いた移植実験で、CD47薬剤阻害の効果検討を継続する。さらに、転移巣から樹立し、DCLK1, CD47を高発現するMTOを用い、CD47の阻害が、がんの浸潤・転移に及ぼす影響を評価している。現時点ではCD47阻害剤の使用により、原発の腫瘍サイズには差は見られないが、肝・リンパ節転移の頻度に関しては減少が確認できている。今後、さらにnを増やして検討を継続していく。 3)THBS1阻害による線維化・血管新生への効果:THBS1全身 KOマウスへMTO直腸同所移植実験を行い、間質におけるTHBS1の阻害により、原発の腫瘍サイズに著変は認めなかったが、リンパ節・肝転移形成において著明な減少が認められている。今後、がん組織における免疫細胞、サイトカインの変化をFACS、RNA-seq遺伝子発現解析などで評価する。さらに、Masson Trichrome染色で線維化を、CD34染色で血管新生を評価する。腫瘍フェノタイプとの相関を検討していく。
|