2021 Fiscal Year Annual Research Report
膜融合を制御するホスファチジルセリン分子の探索と骨格筋肥大における作用機序の解明
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21H03330
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
井上 菜穂子 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (00509515)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
財満 信宏 近畿大学, 農学部, 教授 (40455572)
古市 泰郎 東京都立大学, 人間健康科学研究科, 助教 (40733035)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 骨格筋 / 脂質 / イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
骨格筋は体を動かす動的な役割を担うだけでなく、体内の70%の糖を代謝する重要な糖代謝器官である。疾患や加齢に伴い筋量が減少することから、有効的な筋肥大メカニズムの解明、および筋萎縮を抑制するような薬剤等が期待されている。骨格筋が肥大するには、組織内に存在する幹細胞が増殖して、筋線維に融合するプロセスが必要になる。そこで本研究では細胞膜の融合イベントに注目することとした。すでに、筋細胞が融合する際に必須の融合制御タンパク質が同定されており、いずれも細胞膜脂質の一種であるホスファチジルセリンを認識・制御する因子であった。しかし、これまでホスファチジルセリンが関与することは報告されてきたものの、ホスファチジルセリンの中でどのような分子種が融合に関与しているか、という解析はなされていない。我々は、ホスファチジルセリンの分子種組成には細胞特異性が存在し、特定の分子種が膜タンパク質との結合能に寄与しているのではないか、と考え、筋肥大に必要な筋細胞の融合メカニズムを明らかにすることを目的として、研究を行うこととした。初年度は、筋肥大誘導動物モデルとして、持久的運動トレーニングを行ったマウスを作成し、腓腹筋を対象として変動のある脂質分子種の探索を行った。その結果、肥大に伴い変動する脂質分子の同定を達成した。さらに筋萎縮動物モデルとして、ギプス固定による廃用性筋萎縮モデルを作出し、その際に変動する脂質分子種の選定も行った。これらの脂質分子はいずれもホスファチジルセリンを含む細胞膜構成脂質であり、骨格筋細胞の融合イベントに関与する分子である可能性があるため、今後詳細な機能解析を進めていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度は骨格筋の脂質組成解析のための分析基盤の構築を行った。薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー質量分析を用いた解析により、マウス、ラットの腓腹筋、長趾伸筋、ヒラメ筋を対象として脂質抽出を行い、構成する脂質分子種の解析を行った。その結果、各筋組織によってその脂質組成が大きく異なることが明らかとなった。また筋組織を筋線維ごとに分け、速筋線維、遅筋線維に分けて解析をすることで、速筋、あるいは遅筋特異的な脂質分子種を確認することができた。具体的には速筋は糖代謝を、遅筋は脂質代謝をメインに行うため、遅筋は多くの中性脂質を有しているという特徴のほか、多価不飽和脂肪酸を含有する細胞膜脂質が多いということを明らかにした。さらに、質量分析イメージングを行うことで、これらの特異的脂質分子種の特徴的な局在を明らかにすることができた。また、持久的運動トレーニングモデルや廃用性筋萎縮モデルにおいてこれらの脂質が質的・量的に変動する様子も観察できた。その結果、特徴的な脂肪酸を有する細胞膜脂質に逆相関する変動が観察されたため、今後この細胞膜脂質の合成・代謝経路に関連するタンパク質などにも焦点をあて、骨格筋構成に必須な細胞融合イベントにおける脂質の役割について明らかにしていきたい。今回脂質組成の解析を行った結果、一部、量的に観察が難しい分子種も存在していたため、今後はさらなる高感度化が必要であるといえる。令和4年度はそのあたりの分析技術の向上についても新たな課題として取り組んでいきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞膜脂質であるリン脂質の解析は主に質量分析を用いた解析が行われてきた。この場合、物質の構造依存的なイオン化効率によって検出しやすい分子とそうでない分子が存在する。本研究でターゲットとしているホスファチジルセリンはそのイオン化効率の低さから、分子種分析がなされてこなかった。そこで令和3年度はホスファチジルセリンを選択的にイオン化する条件を確立することを目的とし、ホスファチジルセリン分子種分析の手法を検討した。その結果、骨格筋の組織からホスファチジルセリン画分を単離し、分析する基盤を構築することに成功した。解析の結果、予想していた通り、腓腹筋、長趾伸筋、ヒラメ筋など筋組織によってホスファチジルセリンの組成には特異性があることが明らかとなった。一方、これらの局在を可視化する目的で質量分析イメージングを行うためには、さらなる高感度化が必要であるという新たな課題にも直面した。そこで令和4年度は微量ホスファチジルセリンの同定も可能とするような高感度分析基盤の構築を試みる(井上)。その後、融合イベントにかかわるホスファチジルセリン組成を明らかにする目的で、未分化・分化筋細胞におけるホスファチジルセリン組成の解析(財満)及び、骨格筋組織からセルソーターで単離したサテライト細胞や他の骨格筋由来細胞のホスファチジルセリン組成を解析する(古市)ことを計画する。この時、特徴的な分子種が同定されれば、その合成・分解に寄与する経路の探索を行い、これらの脂質をコントロールすることで融合イベントを制御できるかについて検討したい。
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Research Products
(3 results)