2021 Fiscal Year Annual Research Report
運動による骨格筋の適応変化範囲を規定するエピジェネティック機構の追究
Project/Area Number |
21H03383
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Matsumoto University |
Principal Investigator |
河野 史倫 松本大学, 大学院 健康科学研究科, 教授 (90346156)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 骨格筋 / 運動 / エピジェネティクス / ヒストン修飾 / H3K27me3 |
Outline of Annual Research Achievements |
運動によって骨格筋の遺伝子領域に分布増加するヒストン修飾H3K27me3の役割を調べるため以下のような研究を実施した。1)急性運動によるヒストン修飾分布変化:マウスにトレッドミルを用いた急性運動を行い2時間後に前脛骨筋をサンプリングした。RNA-seqにより急性運動で発現増加する遺伝子群と非応答遺伝子群を抽出し、ChIP-seqによりこれらの遺伝子領域におけるヒストン修飾分布を解析した。運動に対して発現増加応答する遺伝子群では、H3K27me3とH3K4me3の両方が多く分布していることが分かった。非応答遺伝子群では、H3K4me3は多いもののH3K27me3が顕著に少なかった。両遺伝子群においてH3K27me3とH3K4me3が有意に相関することも明らかになった。2)GSK343投与の影響:H3K27メチル化酵素のひとつであるEZH2の阻害剤GSK343を繰り返し投与しながら4週間の走運動トレーニングを実施した。4週間のトレーニングにより筋核中にH3K27me3が蓄積したが、GSK343投与群ではこの蓄積量がさらに亢進し、タイプIIa筋線維数も有意に増加した。トレーニングによるリン酸化AMPK、HSP70、PDK4、MuRF1タンパク質量の増加も、GSK343投与により亢進した。3)Valemetostat投与の影響:EZH1/2の二重阻害剤valemetostatを投与しながら上記と同様の運動を行った。Valemetostat投与群では、トレーニングによる筋核へのH3K27me3蓄積が起こらず、タイプIIa筋線維数は減少した。リン酸化AMPK、HSP70、MuRF1タンパク質量の増加も認められなかった。以上の結果から、運動によって付加されるH3K27me3は骨格筋の運動効果獲得に不可欠であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究期間の初年度が終了した時点であるが、本研究で得られた成果は既に国際学術誌に投稿済みであり、現在R2が査読中である。非常に進行が速く、運動誘発性H3K27me3の仕組みにアプローチする次の研究に関しても既に着手できている。したがって、「当初の計画以上に進展している」と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
運動トレーニング効果獲得におけるH3K27me3の役割については明確な研究成果が得られたが、運動によってH3K27me3を付加する仕組みに関しては、その解析ツールの少なさから直接的なデータは得られなかった。具体的には、運動においてH3K27me3付加を担うと考えられるEZH1はChIP解析に対応した抗体が販売されておらず、ノックアウトマウスを作成するためのfloxマウスもまだ作成されていない。EZH1とEZH2の酵素活性を別々に評価できる試薬もない。したがって、運動におけるH3K27メチル化酵素EZH1とEZH2の動態を正確かつダイレクトに捉えるための実験系を新たに作成し活用する。タグ付きのEZH1/2を骨格筋特異的に同時発現させ、ChIP解析可能にするというものであるが、タグ付加による核移行・複合体形成・酵素活性への影響、タグ抗体による沈降効率、EZH1/2発現のみで起こる変化など、予備実験により確認が必須である。2022年度はまずGFPやmCherryを発現するベクターを作成し、実験系そのものがworkするのか検証を行う。
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