2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21H03469
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
小林 耕太 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (40512736)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古山 貴文 金沢医科大学, 医学部, 助教 (20802268)
飛龍 志津子 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (70449510)
宮坂 知宏 同志社大学, 生命医科学部, 准教授 (90342857)
玉井 湧太 同志社大学, 研究開発推進機構, 助教 (70906627)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 人工内耳 / 赤外レーザー / 神経刺激 / 補聴器 / 感音性難聴 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請研究は近赤外光刺激を利用して次世代人工内耳を開発することを目的としている。感音性難聴者の治療に主としてもちいられる人工内耳は、蝸牛内に外科的に挿入した電極アレイにより電気的に聴神経(螺旋神経節細胞)を刺激することで聴力の回復をおこなう。この従来型人工内耳は聴覚末梢器官への外科手術を必要とするため、副作用などのコストが問題となっている。本計画では非接触で神経活動を引き起こさせる手法である、赤外光により熱的に細胞を刺激する手法を人工内耳に応用し、神経活動を非接触で誘発し、聴力を再建(または補助)する手法の開発を目指す。具体的には、動物実験により光刺激が再建可能な知覚内容を検討するとともに、装置を長期装用した場合の生体への影響(安全性)を評価する。また、主にヒトを対象として装着方法および言語知覚を再建するための刺激アルゴリズムを検討した。当該年度の研究により、動物実験では光刺激により、近赤外光の刺激部位および刺激強度を変えることで周波数と音圧の知覚を制御可能である可能性が示された。また実験(刺激)期間中に動物の行動応答の低下は見られなかったことから赤外光刺激が一過性な神経応答の低下をもたらすことは無いことが分かった。さらに、ヒトを対象にした実験では光刺激の産み出すと想定される音声の知覚は学習により優位に向上すること、学習の刺激としては視聴覚複合刺激が能力向上の効果が高いこと、また学習後には従来型の人工内耳と同程度の知覚を生み出し得ることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験1では、被験体としてげっ歯類(Meriones unguiculatus=スナネズミ)を用いた。スナネズミ、聴覚系の生理学的なデータの知見が蓄積しており、小型げっ歯類としてはヒトと類似した聴覚感度曲線を持つため本計画に適した動物種である。赤外光および光刺激を条件刺激、として古典的条件付け訓練をおこなった。訓練完成後、音響マスキングと同時に条件刺激を提示し行動応答を計測した。マスキキング音の音圧を変えることで、赤外光刺激が音に対する知覚応答が減少した。これは光刺激が“音”として知覚されていることを強く示唆する結果である。続く、実験2では、光刺激後の蝸牛における最初期遺伝子発現の可視化する実験をおこなった。実験1と同様に被験体としてスナネズミを用いた。赤外光によりスナネズミに聴覚反応性の行動を引き起こさせた後に、蝸牛を摘出し、即初期遺伝子(c-fos)染色を行い、刺激部位刺激の同定を観察した結果、螺旋神経節細胞の活動を示唆する染色結果がえられた。実験3では、ヒトを対象に音声から光刺激に変換するアルゴリズムの開発をおこなった。赤外光刺激によって言語を知覚させるために、音声を光刺激に変換して再生する必要がある。本研究では、音声から光刺激に変換するアルゴリズムの開発および、その音声を正しく知覚させるための学習手法について評価をおこなった。日本母語話者の会話コーパス音および、無意味単語を刺激として用いた。音声のフォルマントピーク周波数および音圧の時間変化にもとづき、光刺激のパルス頻度および強度を変調させた、新型人工内耳のシミュレーション音を刺激とした結果、1週間以内の訓練期間で知覚が向上することが分かった。上記3つの実験成果により赤外光人工内耳の基礎および応用研究は順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、げっ歯類を対象とした近赤外光刺激の“聴こえ”をより明らかにしていく必要がある。引き続き被験体としてげっ歯類の一種、スナネズミ(Meriones unguiculatus)を用いた実験を実施する。スナネズミは、聴覚系の生理学的なデータの知見が蓄積しており、小型げっ歯類としてはヒトと類似した聴覚感度曲線を持つため本計画に適した動物種である。赤外光刺激が音として知覚されるのかを行動レベルで示すため、スナネズミを被験体とし、赤外光および光刺激を条件刺激、水を報酬として古典的条件付け訓練をおこなう。訓練完成後、音刺激と光刺激間での刺激般化を計測することで、“聴こえ”の評定をおこなう計画である。また、げっ歯類を対象とし刺激部位を同定するため、本年度の生理実験を引き続きおこなうとともに、熱に対する生理応答のマーカーなどのより感度の高い染色手法を実施する計画である。最後に、ヒトを実験対象として、言語を知覚させるために必要となる、音声から光刺激に変換するアルゴリズムの高精度可が必要である。現在まで有効性が明らかになった、音声のフォルマントピーク周波数および音圧の時間変化にもとづき、光刺激のパルス頻度および強度を変調させた、新型人工内耳のシミュレーション音を刺激として使用する計画である。日本母語話者の会話コーパス音および、無意味単語を刺激として用いる。特に訓練方法を検討するため、複数の刺激(文字刺激、音声刺激、現音声)をどのような順番で提示するのが学習方法として効率が良いかを検討できるだろう。
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Research Products
(5 results)