2021 Fiscal Year Annual Research Report
北極海洋生態系を育む「種」を運ぶDirty Iceの役割とその空間分布の解明
Project/Area Number |
21H03583
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
藤原 周 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(北極環境変動総合研究センター), 研究員 (00756489)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
八田 真理子 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(北極環境変動総合研究センター), 副主任研究員 (00896110)
伊藤 優人 国立極地研究所, 研究教育系, 特任研究員 (40887907)
塩崎 拓平 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (90569849)
松野 孝平 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (90712159)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 植物プランクトン / 海氷 / 堆積物 / 北極海 / 海洋生態系 |
Outline of Annual Research Achievements |
冬季の北極海では海氷が生成する際に、海底堆積物が巻き上がり氷に取り込まれることがある。本研究では、そのプロセスと共に植物プランクトンも海氷内部に取り込まれ、それが春季に融氷とともに放出されることで、春季ブルームの起源となるという仮説をたて、それを観測・実験によって立証することを目的としている。そのためには、堆積物を含んだ海氷試料の採取が必須であるが、2021年度、2022年度共に、新型コロナ流行のため、計画していたアラスカ沿岸定着氷観測ができず2023年度に延期したため、海氷試料を得ることができなかった。その代替実験として、北極海陸棚域の海底堆積物試料を用いて、堆積物中の植物プランクトンの増殖能力を把握するための培養実験を行った。その結果、堆積物中の植物プランクトン細胞は、水中に再懸濁した状態で光を獲得すると、数日でブルーム状態となり、確かな増殖を示すことが明らかとなった(Shiozaki and Fujiwara et al., 2022, Fukai et al., 2022)。つまり、アラスカ沿岸域などの浅海域では、海氷生成時に堆積物が内部取り込まれれば、堆積物に含まれる植物プランクトンの「タネ」が融氷時に光環境良好な海面付近に放出され、春季ブルームの起源となり得る確かな可能性を示した。さらに、衛星リモートセンシングデータの解析の結果、アラスカ沿岸で生成した海氷は北極海を広く循環することが明らかとなり、大きく離れた場所にまで、海洋一次生産を支えている「タネ」が輸送されていることを示唆する。これは、北極海における一次生産動態の新しい知見となる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021および2022年度は、新型コロナウイルス流行のために海氷観測が延期され、当初計画からは研究順序を大きく変更した。しかしながら、研究アプローチを変え、まずは北極海海底堆積物に含まれる植物プランクトンのタネとしてのポテンシャルを実験的に明らかにし、その成果は2編の論文として発表した。また、堆積物を含む海氷の生成場所や移動経路を衛星リモートセンシングで追跡する手法も確立しつつある。堆積物を含む海氷試料の採取とその実験は2023年5月中に実施するよう調整済みであり、それをもって本研究の仮説立証に資するデータが揃う。課題最終年度の2024年度内には十分課題の達成を見込むことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では以下の3つの小課題に研究アプローチを分けて研究課題の達成に取り組む。 1) 堆積物中の植物プランクトンの増殖能力の評価 2) 海氷中の堆積物に含まれる植物プランクトン生物量とその増殖能力の評価 3) 堆積物を含む海氷の生成場所の特定とその輸送経路の評価 先述の通り、太平洋側北極海陸棚域の堆積物中には十分な増殖能力を持つ植物プランクトン細胞が多量に含まれ、光環境・栄養環境が整えば十分にブルームの起源となる可能性は明らかとなり、論文成果としても発表し、小課題1は達成した。また、小課題2も順調に進んでおり、堆積物を含む海氷の輸送経路を算出する手法も概ね確立したため、長期衛星データの解析を終え次第、成果として発表する。2023年度は5月にアラスカ沿岸における氷上観測を実施予定であり、小課題3を主体に実験に取り組む。2023年度内にはデータが出揃う見込みである。最終的に一連の課題を総括した研究成果を2024年度に公表する。
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