2022 Fiscal Year Annual Research Report
表流水からの簡便・迅速な薬剤耐性病原大腸菌の超高効率濃縮回収とゲノム履歴分析
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21H03620
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
鈴木 祥広 宮崎大学, 工学部, 教授 (90264366)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小椋 義俊 久留米大学, 医学部, 教授 (40363585)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 薬剤耐性病原大腸菌 / 病原遺伝子 / 河川水 / 多剤耐性 |
Outline of Annual Research Achievements |
溶血性出血大腸菌(STEC)は,食中毒の発症事例が最も多く,しかも発症すると重篤な症状を引き起こすことがあるため,最も重要な病原大腸菌に位置づけられている.しかしながら,河川水の大腸菌の濃度は,ふん便や下水,生活排水と比較して低い。さらに不規則的かつ低存在率で発現するSTECの検出・計数は,通常の方法では極めて困難であるとされる.したがって,今日においても,河川水中のSTECの実態に関する知見・情報は極めて少ない.そこで本研究では,大淀川の最上流域から上流に至る流域において,新基準の大腸菌について公定法に準じてモニタリングを行った.また, 河川に極低濃度で存在すると推察されるSTECについては,凝集・泡沫濃縮法と酵素基質培地を組み合わせた手法を用いて回収し,病原遺伝子とO血清群遺伝子の解析によってSTECを判定した. 2か月ごとに大淀川上流域10地点における大腸菌数の変動を調査した.また凝集・泡沫濃縮法によるSTECの回収を試みた.大腸菌数を各地点で計数したところ,生活環境項目環境基準を超過する地点が見られた.また,STECの存在が確認された.STEC陽性大腸菌株をMultiplex PCR法によって,遺伝子解析したところ,stx2 のみを保有するSTECが調査地点のSt.1から1株,St.5から3株検出された.人為的な汚染がほとんどないSt.1から検出されたSTECは,野生動物由来である可能性が高い.St.5におけるSTECは,St.4からSTECの検出がなかったこともあり,由来は不明である.しかしながら保有するSTEC関連遺伝子が同じであるため,St.1の由来と同一である可能性がある.本研究でSTECが検出されたことは,非常に深刻な事態であり,大腸菌の汚染源を解明し,対策を講じることが急務である.今後は,STEC株の薬剤耐性試験を実施する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
捕集剤と起泡剤を兼ねて,タンパク質の乳性カゼインを試料水に添加し,分散気泡で曝気し,水面に形成される泡沫を回収する方法を検討した。回収率の向上を目的として,前段に,鉄塩凝集剤による凝集プロセスの導入も検討した。培養と計数が容易な非病原大腸菌をモデルとした模擬汚染水を用いて,回収率からカゼインと凝集剤の最適条件を設定できた。目標設定値:5-10 Lの水試料の大腸菌を1 mLの泡沫液に超濃厚に濃縮できる(5,000-10,000倍)。最適条件において,O157の標準株で模擬汚染水を作成して,回収方法を最終チェックした。 病原大腸菌(STEC)のスクリーニングと単離法において,すでに,食品検査において病原大腸菌検出のための選択培地が開発され,汎用されている。その検査方法を応用して,泡沫濃縮液から病原大腸菌選択培地を用いて単離法を検討し,STECを検出することができた。 実サンプルによる病原大腸菌同定法の確立において,河川水を対象として,本研究で開発した泡沫濃縮,病原大腸菌の単離・同定,検出・定量の各プロセスを検討し,本法の妥当性を実証した。病原大腸菌を同定するため,単離株について,PCR法による特定の病原遺伝子を検出することが可能となった。 同時並行として,実河川におけるモニタリング調査を2カ月とごに実施し,大腸菌の汚染実態を検討した。大腸菌数を各地点で計数したところ,生活環境項目環境基準を超過する地点が見られた.また,STECの存在が確認された.以上の事から,大淀川上流域においては,大腸菌の何らかの汚染源,河川水中における再増殖の可能性が示唆された. 河川水からのSTECの濃縮・検出法を確立するとともに,実河川における大腸菌のモニタリングとSTECの存在を確認することができた。研究計画にしたがって,成果を得ることができた。したがって,概ね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
河川流域全体における薬剤耐性病原大腸菌の分布拡散の実態把握:土地利用と河川規模の異なる河川流域において最上流域から下流,河口に至る流域の調査地点を選定し,定期的にサンプリングを実施する。サンプルは,開発した泡沫濃縮法を用いて,病原大腸菌を計数(病原大腸菌数/大腸菌数)し,単離する。単離した病原大腸菌株は,日本化学医療学会の定めた最小発育阻止濃度試験によって薬剤耐性を評価する。 薬剤耐性病原大腸菌の全ゲノム履歴分析:単離した薬剤耐性病原大腸菌について,次世代シーケンサーによる全ゲノム解析を行う。系統群,宿主痕跡の遺伝子情報,プラスミドと染色体のDNA上の薬剤耐性遺伝子の伝播位置等から各単離株の全ゲノム履歴分析を行う。その分析結果に基づいて,調査河川流域における汚染源を推定する。また,病原大腸菌の薬剤耐性遺伝子の獲得状況から薬剤耐性の発現機構を解明する。
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