2022 Fiscal Year Annual Research Report
実用表面材料開発研究のための高効率な全反射高速陽電子回折実験システムの開発
Project/Area Number |
21H03745
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
和田 健 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (10401209)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
望月 出海 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 助教 (30579058)
兵頭 俊夫 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 協力研究員 (90012484)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 表面 / 陽電子回折 / 低速陽電子ビーム |
Outline of Annual Research Achievements |
陽電子は反粒子のため十分なビーム強度を得るのが困難で全反射高速陽電子回折(TRHEPD)法等の実験では測定に時間がかかり,これが表面関連材料研究におけるボトルネックとなっている。現状の低速陽電子ビームの時間平均強度は典型的な電子ビームによる実験と比較して6桁程度弱く,その強度増大は喫緊の課題である。ところが,加速器ベースの低速陽電子ビームは20 ms毎に1 μsのパルス幅のビームで供給されるため,パルス中では時間平均強度に対して20,000倍もの瞬間強度になっている。2020年の低速陽電子生成部の改良に伴うビーム強度の向上により,TRHEPD の回折ビームにおいても,この瞬間強度において検出器のマイクロチャンネルプレート(MCP)の許容レートを超えてMCPの劣化が進むことが予想され,実際にその通りとなった。MCPの劣化を防ぎつつ高強度ビームでの実験を可能とするために,低速陽電子回折(LEPD)実験用に5 keVのビームに対して開発し稼働中のパルスストレッチャーを,TRHEPDの15 keVのビームにも対応させることによる準DCビームへの変換に関する研究を進め,良好な結果が得られてきている。 また,陽電子回折実験 (TRHEPDとLEPD)では,磁場によって輸送した低速陽電子ビームを非磁場領域にビームを引出してから減速材 (リモデレータ) にビームを収束する。陽電子回折実験のビーム強度増大のためには,このための磁場から非磁場への低速陽電子ビームの効率的な取り出しとその後のビームの収束は,ビーム技術開発要素の核心となっており,そのための光学系の改良研究も進んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
パルスストレッチャーで使用しているPenning-Malmbergトラップの電極は,真空配管内の長さ約6 mのトラップ電極およびその両端のゲート電極と接地電極から構成されており,現在は5.0 keVの1 μs のパルスビームを5.2 keV の準DCビームに変換してLEPD実験に供給している。TRHEPDに必要な15 keVの準DCビームを供給できるようにするために,15 kVを超える電圧の印加のための特殊パルス電源の開発と,各電極の放電対策を進めた。試作したトラップ電極およびゲート電極を組上げて,試験用真空配管内部に設置し,真空排気試験を行うと共に,高電圧パルス印加試験を開始し,良好な結果が得られている。 装置直前まで磁場輸送されてきた低速陽電子ビームを非磁場領域に高輝度で取り出すための新しい光学系を用いたビーム試験を行った。これは,昨年度設計し作成した光学系において,ビーム収束用の静電レンズを磁場収束レンズにかえたものである。このビーム試験では、マイクロチャンネルプレート (MCP) と蛍光スクリーンを組み合わせた検出器を用いてビームを観測する。そのために,LANカメラによって蛍光スクリーン上のビーム形状や強度をリアルタイムに評価するソフトウェアを開発した。ビームの調整には,多数の電磁石コイルへの電流値の微調整が必要になる。そのための電源を整備し,各コイルへの電流値を微調整しつつ,ビーム調整と評価を行った。その結果,ビームを十分に収束できることが確認できた。さらに,磁場収束レンズの上流側の静電レンズ (アインツェルレンズ) 部において,磁場収束レンズへの陽電子輸送効率が落ちていることがわかり,このアインツェルレンズを省略して磁場収束レンズに導入するよう改良してビーム試験を行った。その結果,輸送効率が数倍に高められたことが確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
高電圧パルス電源ステーションについては,入口ゲート電極用のパルス電源回路へのコンデンサの追加と,電極に接続した場合のインピーダンス整合をとりかつ電極で放電が起こった時の電源保護のための抵抗を追加すれば必要とする性能が達成できることがわかったので,この改造設計を行っていく。また,電極本体への配線部において放電することがあるため,この対策を進める。 低速陽電子ビームを非磁場領域に高輝度で取り出すシステムの開発については,磁場遮蔽用の磁性体薄膜と最終段の磁場収束レンズの距離をつめることでさらにビーム輸送効率を高められそうであることがわかったので,その改造設計を進める。また,この光学系の開発を通して得られた知見が,ポジトロニウムのレーザー冷却実験にも応用できることもわかってきたので,その検討も進める。
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Research Products
(26 results)
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[Presentation] 低速陽電子実験施設報告2023
Author(s)
和田健, 望月出海, Rezwan Ahmed, 星健夫, 兵頭俊夫, 一宮彪彦, 水野清義, 仁谷浩明, 小菅隆, 齋藤裕樹, 石井晴乃, 永谷康子, 五十嵐教之, 北村未歩, 小澤健一, 白川明広, 榎本嘉範, 惠郷博文, 岩瀬広, 近藤良也
Organizer
2022年度量子ビームサイエンスフェスタ
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[Presentation] TRHEPD法による銅基板上の大面積ホウ素原子シート、ボロフェンの構 造解明2023
Author(s)
辻川夕貴, Xiaoni Zhang, 堀尾眞史, 中嶋武, 安藤康伸, 望月出海, 和田健, 兵頭俊夫, 小森文夫, 近藤剛弘, 松田巌
Organizer
2022年度量子ビームサイエンスフェスタ
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[Presentation] TRHEPD法による銅基板上の大面積ホウ素原子シート,ボロフェンの構造解明2023
Author(s)
辻川夕貴, ZHANG Xiaoni, 堀尾眞史, 中嶋武, 安藤康伸, 望月出海, 和田健, 兵頭俊夫, 小森文夫, 近藤剛弘, 松田巌
Organizer
2023年度量子ビームサイエンスフェスタ
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[Presentation] 一次元ホウ素原子鎖を含む表面二次元ホウ化銅の研究2023
Author(s)
辻川夕貴, Xiaoni Zhang, 堀尾眞史, 小森文夫, 松田巌, 中嶋武, 安藤康伸, 望月出海, 和田健, 兵頭俊夫, 近藤剛弘
Organizer
第15回 日本ホウ素・ホウ化物研究会
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[Presentation] Positronium Laser Cooling: Improving detector pulse analysis efficiency via machine learning2022
Author(s)
Randall W. Gladen, A. Ishida, S. Asai, T. Namba, Y. Tajima, R. Uozumi, K. Shu, K. Yoshioka, T. Hyodo, I. Mochizuki, K. Wada
Organizer
京都大学複合原子力科学研究所専門研究会「陽電子科学とその理工学への応用」(2022年)
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[Presentation] ボース・アインシュタイン凝縮を目指したポジトロニウム生成用試作ナノ材料のポジトロニウム飛行時間測定による性能評価2022
Author(s)
石田明, 難波俊雄, 浅井祥仁, 田島陽平, 小林拓豊, 魚住亮介, 周健治, 吉岡孝高, 大島永康, オロークブライアン, 満汐孝治, 渡邉亮太, 伊藤賢志, 兵頭俊夫, 望月出海, 和田健, 前川雅樹
Organizer
京都大学複合原子力科学研究所専門研究会「陽電子科学とその理工学への応用」(2022年)
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[Presentation] Recent progress in positronium laser cooling2022
Author(s)
A. Ishida, R.W. Gladen, T. Namba, S. Asai, M. Kuwata, Gonokami, Y. Tajima, T. Kobayashi, R. Uozumi, K. Shu, E. Chae, K. Yoshioka, N. Oshima, B.E. O’Rourke, K. Michishio, K. Ito, K, Kumagai, R. Suzuki, S. Fujino, T. Hyodo, I. Mochizuki, K. Wada, T. Kai
Organizer
19th International Conference on Positron Annihilation (ICPA-19)
Int'l Joint Research / Invited
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[Presentation] ポジトロニウムのレーザー冷却実験2022
Author(s)
魚住亮介, 田島陽平, 石田明, 難波俊雄, 浅井祥仁, 五神真, 大島永康, オロークブライアン, 満汐孝治, 伊藤賢志, 鈴木良一, 兵頭俊夫, 望月出海, 和田健, 蔡恩美, 周健治, 吉岡孝高
Organizer
日本物理学会2022年秋季大会
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[Presentation] Positronium Laser Cooling: Improving detector pulse analysis efficiency via machine learning2022
Author(s)
R.W. Gladen, A. Ishida, T. Namba, S. Asai, Y. Tajima, R. Uozumi, K. Shu, K. Yoshioka, T. Hyodo, I. Mochizuki, K. Wada
Organizer
日本物理学会2022年秋季大会
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[Presentation] 飛行時間測定によるポジトロニウム生成用試作ナノ材料の性能評価2022
Author(s)
石田明, 難波俊雄, 浅井祥仁, 田島陽平, 小林拓豊, 魚住亮介, 周健治, 吉岡孝高, 大島永康, オロークブライアン, 満汐孝治, 渡邉亮太, 伊藤賢志, 兵頭俊夫, 望月出海, 和田健, 前川雅樹
Organizer
日本物理学会2022年秋季大会
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[Presentation] Cu(111)基板上のホウ素原子鎖についての研究2022
Author(s)
辻川夕貴, 堀尾眞史, Xiaoni Zhang, 妹尾共晃, 中嶋武, 安藤康信, 尾崎泰助, 望月出海, 和田健, 兵頭俊夫, 飯盛拓嗣, 小森文夫, 近藤剛弘, 松田巌
Organizer
日本物理学会2022年秋季大会
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[Presentation] ポジトロニウムのレーザー冷却の実証実験2022
Author(s)
田島陽平, 山田恭平, 魚住亮介, 石田明, 難波俊雄, Randall W. Gladen, 浅井祥仁, 五神真, 大島永康, オロークブライアン, 満汐孝治, 伊藤賢志, 鈴木良一, 兵頭俊夫, 望月出海, 和田健, 蔡恩美, 周健治, 吉岡孝高
Organizer
日本物理学会2022年秋季大会
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[Presentation] ポジトロニウムのボース・アインシュタイン凝縮I(全体像と高密度ポジトロニウム生成)2022
Author(s)
石田明, Randall W. Gladen, 難波俊雄, 浅井祥仁, 五神真, 田島陽平, 小林拓豊, 魚住亮介, 周健治, 蔡恩美, 吉岡孝高, 大島永康, オロークブライアン, 満汐孝治, 伊藤賢志, 熊谷和博, 鈴木良一, 藤野茂, 兵頭俊夫, 望月出海, 和田健, 甲斐健師
Organizer
日本物理学会2022年秋季大会
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[Presentation] ポジトロニウムの高分解能速度分布測定法の開発2022
Author(s)
魚住亮介, 田島陽平, 小林拓豊, 蔡恩美, 石田明, 難波俊雄, 浅井祥仁, 五神真, 大島永康, オロークブライアン, 満汐孝治, 伊藤賢志, 鈴木良一, 兵頭俊夫, 望月出海, 和田健, 周健治, 吉岡孝高
Organizer
第59回アイソトープ・放射線研究発表会
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[Presentation] Experimental progress towards measuring antimatter gravity using positronium2022
Author(s)
Kenji Shu, Ryosuke Uozumi, Yohei Tajima, Kosuke Yoshioka, Eunmi Chae, Toshio Namba, Akira Ishida, Shoji Asai, Makoto Kuwata-Gonokami, Nagayasu Oshima, Brian E. O'Rourke, Koji Michishio, Kenji Ito, Kazuhiro Kumagai, Ryoichi Suzuki, Shigeru Fujino, Ken Wada, Izumi Mochizuki, Toshio Hyodo, Takeshi Kai
Organizer
23rd International Conference on General Relativity and Gravitation
Int'l Joint Research