2021 Fiscal Year Annual Research Report
新しい最表面分析法-中性化高速ポジトロニウム分光は可能か?
Project/Area Number |
21H03748
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | National Institutes for Quantum Science and Technology |
Principal Investigator |
前川 雅樹 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 主幹研究員 (10354945)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮下 敦巳 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 主幹研究員 (00354944)
河裾 厚男 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 上席研究員 (20354946)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 高速中性化ポジトロニウム / スピン偏極低速陽電子ビーム / 最表面電子 / スピン偏極電子バンド構造 / エネルギー・角度分解測定 / ディレイライン型二次元検出器 / スピントロニクス材料評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、物質最表面に存在する電子だけを選択的に捉え、そのスピン状態をバンドごとに分解できる新しい物性評価手法「中性化高速ポジトロニウム分光装置」の開発に挑み、中性化高速ポジトロニウム形成理論の実験的検証を試みる。 陽電子を100 eV程度のエネルギーで金属表面に照射すると、表面原子との弾性散乱時に表面電子を引き連れ、入射陽電子と同程度のエネルギーを持つ中性化高速ポジトロニウムが生成する。しかしポジトロニウムのエネルギーが高く、これまで有効な検出手法が存在しなかったため、高い表面敏感性を持つと考えられながらも分光利用はされてこなかった。本研究では、研究代表らが有しているスピン偏極陽電子ビーム技術に、新開発の陽電子回折実験用二次元位置敏感型検出器を組み合わせる。この検出器の感度特性が中性化高速ポジトロニウムにも適することから、本課題解決が可能であると着想したものである。 2021年度には二次元位置敏感型検出器の設置方法の詳細検討、検出器の選定と調達を行った。ポジトロニウムの散乱には前方散乱(陽電子ビームと散乱ポジトロニウムの入出射方向が同じ)と後方散乱(陽電子ビームの入射に対し逆向きに反射)の2種類があり、検出に用いる位置敏感型検出器が異なる。後方散乱の場合は、有孔型検出器を試料に正対して設置し、陽電子ビームを貫通孔より入射させる。この場合、得られる散乱イメージは軸対称となり解析が容易であるが、散乱角0度付近の波数成分(バンド図のΓ点に対応する)が入射孔から抜けるという問題がある。一方、前方散乱では得られるイメージが扇形に変形し、装置構成も複雑になるが、特定の波数成分が抜けるという問題はなく、また散乱断面積も大きく検出が容易と予想される。検討の結果、本研究では前方散乱型がより適すると判断し、対応する検出器を調達した。2022年度には検出器組み立てを予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度に行った検出器の検討に基づき、対応する形状の位置敏感型二次元検出器を調達した。現在、これを組み込むための測定チャンバの設計を進めている。購入した検出器は前方散乱ポジトロニウムに対応した平板型のものを購入したが、当初の計画では後方散乱ポジトロニウムの検出に適した貫通有孔型を調達する予定であった。これは散乱断面積の評価および測定可能角度(波数領域)を詳細に検証した結果、前方散乱型のほうがより有利であると結論付けたためである。しかし、構成機材のすべてを同軸上に配置できる後方散乱型に比べ、前方散乱型では試料部で屈曲してしまうため、装置構成が複雑になってしまうという欠点もある。このため測定チャンバの設計に時間を要している。また予算の関係上、信号読み出し系を2021年度中にすべて用意することができなかった。一方でこれは、信号線の配置等について時間的猶予が生じたことになり、より最適な配置を現在検討中である。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度から引き続き、中性化高速ポジトロニウム分光法装置の構築を進める。研究代表らがこれまで開発してきたスピン偏極陽電子ビーム装置に、新たに開発した二次元位置敏感検出器を組み込むことでこれを行う。 本装置は2021~2022年度に検出器の調達、ビームライン設計を行い、設置を進める予定である。2023年度以降に高速ポジトロニウム分光の検証、さらには各種表面状態解析に取り掛かる予定である。スピン偏極陽電子ビーム装置はこれまで構築してきた装置を改良して利用する。Na-22線源と静電偏向器を用いて発生させた横スピン偏極陽電子ビームを再減速材(Ni薄膜など)に入射させ、裏面から再放出陽電子を引き出して輝度増強を行う。後段の静電レンズにより100 eV程度の収束陽電子ビーム形成し、試料に照射する。中性化機構により試料表面で形成された高速ポジトロニウムを二次元検出器で検出し、放出角度分布(θ,Φ)を得る。また、リモデレータで発生した二次電子の検出時刻と、位置敏感検出器のポジトロニウム検出時刻の時間差から、放出ポジトロニウムのエネルギー情報を得る計画である。まずは2021年度に購入した検出器の組み立てに着手する。検出器は到達した粒子の電流を増大させるマイクロチャンネルプレートと、粒子位置を二次元情報として取り出すためのワイヤー電極から構成される。まずはこの両者を組み合わせる作業に取り掛かる。また信号読み出し系(号処理システム)の構築を行う。現時点では真空チャンバー容器外への信号取り出し仕様が未決であるので早期にこれを確定し、必要部品の調達などを進める。 併せてスピン偏極陽電子ビーム発生部の改良、リモデレーター部の設計制作、収束光学系の設計製作も順次進めていく予定である。
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