2022 Fiscal Year Annual Research Report
Development of practical techniques for Raman detection of human infectious virus
Project/Area Number |
21H03845
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
佐藤 英俊 関西学院大学, 生命環境学部, 教授 (10300873)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松吉 ひろ子 東海学園大学, 健康栄養学部, 准教授 (10448772)
大嶋 佑介 富山大学, 学術研究部工学系, 准教授 (10586639)
橋本 剛佑 関西学院大学, 生命環境学部, 助教 (30868831)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | ヒト感染性ウイルス / ラマン分光分析 / 生細胞分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
環境中のヒト感染性ウイルスを,連続的にモニターし,ウイルスの存在を3時間以内に検出する技術の開発が,本研究の目的である。従来の研究では,特定の細胞を用いてモデルウイルスの感染を3時間以内に検出する原理実証に成功していた。本研究では,より実用的な技術へと開発を進めるため,細胞やウイルスの種類を増やし,安定的な解析モデルを作り,試作機の開発を行う。本年度はウイルス種の違いによる反応性の違いについて研究した他,環境中のウイルスを収集する装置の試作を行った。 従来アデノウイルスを用いてきたが,レンチウイルスおよびセンダイウイルスに関して,感染時の細胞の変化を分析した。レンチウイルスは感染3時間目で,細胞核内の分子組成に変化が生じ,その変化は24時間まで続くことが示唆された。GFPの発現量は非常に小さいが,24時間目には計測が可能なレベルまで上昇した。従って,ラマン分光分析で得られた感染3時間目の分子組成変化が,発現したGFPによって引き起こされた可能性は低いことが示された。一方,センダイウイルスでも感染12時間後には,蛍光分析により細胞内のGFP濃度が観測可能なレベルまで増加した。しかし,細胞核でのラマン分光分析では,核内の分子組成に,ノイズレベルを超えるような顕著な違いは見られなかった。 環境ウイルス収集装置の開発に関しては,試作機の性能評価を行い装置の改良を目指した。ウイルス回収効率を推定するために,直径1マイクロメートル程度の蛍光ビーズをボックス内にスプレーし,収集された蛍光ビーズの数を計測した結果,試作機での収集効率は約5%であることが分かった。この数値は期待値よりもかなり低いため,今後ボックス内での微小粒子の保持時間を高める方法を開発する必要があることが分かった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
安定的な解析モデルの開発を目指し,多変量解析技術の改良を行った。ウイルスが細胞に与える変化は非常に小さく,培養条件や装置の不安定さが与えるスペクトルの変化に比較してもかなり小さい。研究代表者等は,非感染および感染細胞とデータを厳密に制御して,細胞の変化を敏感に捉える技術をすでに開発している。しかし,従来の技術では,複数の独立した実験で得られたデータを比較することは困難であることが分かってきた。異なる実験において,スペクトルに含まれるホワイトノイズは当然異なる。従来技術では,非感染および感染細胞のデータ間で,含まれるホワイトノイズをできる限り共通化することで,分析性能を改善してきた。本年度は,ノイズを積極的に除去する技術の開発を目指し,バックグラウンドを複数にパターン化して分離し,人工的でノイズの含まれないバックグラウンドパターンの組み合わせによってバックグラウンド補正を行う方法の開発を行った。しかし,現時点では十分な分析性能を得るには至っていない。一方,開発過程に置いて新しい分析手法の発想を得た。実用化の可能性について研究を進めていく予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究の進展はほぼ予定通りであるが,博士研究員の雇用により研究の進捗は加速されたが,本年度は特に,従来技術では解決が難しい問題点も明らかになってきた。センダイウイルスのように,感染しても細胞が反応しないウイルスがあることが発見された。研究代表者等は,ウイルス感染細胞が感染後2-3時間で分子組成を変化させることから,細胞のウイルスに対する「免疫」のような反応,すなわち細胞自身が侵入を検知して,細胞内に今ある分子を活用してウイルス侵入に対抗する反応を検出していると予想していた。しかし,この結果は予想に反している。センダイウイルスはインフルエンザのモデルとしても使われ,本研究で検出したいターゲットウイルスのひとつである。遺伝子が核内移行せずに細胞質でウイルス粒子が複製されるセンダイウイルスの検出ができないのは,細胞の感度が悪い可能性も否めない。反応の大きな培養細胞を探し出す必要がある。 ウイルス収集装置の試作改良については,ウイルス粒子を模したビーズが,収集箱内に吸着したり,ポンプを繋ぐゴムチューブに堆積することが認められた。アクリル製の箱の内部では静電気が生じて埃を呼び寄せていると考えられる。今後静電気に対する対策を施すことが必須となっており,界面活性剤の塗布などの対策を進めていく予定である。
|