2022 Fiscal Year Annual Research Report
近世肥前磁器の生産・消費の地域化と世界流通の相関について-グローカル化の陶磁史-
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22H00688
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
野上 建紀 長崎大学, 多文化社会学部, 教授 (60722030)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡辺 芳郎 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 教授 (10210965)
田中 和彦 鶴見大学, 文学部, 准教授 (50407384)
佐々木 達夫 公益財団法人古代学協会, その他部局等, 理事 (60111754)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 肥前磁器 / グローカル化 / 長崎 / 五島 / 天草 / 中南米 / チョコレートカップ |
Outline of Annual Research Achievements |
近世のグローバリゼーションによって、有田焼などに代表される肥前磁器はイマリと称され、生産地からみて地球の裏側にあたる中南米にまで流通するようになった。本研究ではまず肥前磁器の生産地調査とともに、中南米における肥前磁器の出土地点の調査を行い、肥前磁器の世界的流通ルートを解明する。そして、生産地と消費地の出土遺物の分析を行って、肥前磁器の需要の特質と文化史的な位置付けを明らかにする。さらに、生産地と消費地の地域的様相を比較しながら、生産と消費の地域化と流通の地球規模化の関係を考える。これらのことを達成するために、本研究では3つのフェーズを設定している。フェーズIは、生産地の窯や積出港を研究する「肥前磁器の生産地研究」、フェーズIIは、主に 中南米などの海外消費地の研究を行う「肥前磁器の消費地研究」、そして、フェーズIIIがフェーズIとIIの成果をもとにした「肥前磁器の生産 ・消費と流通にみる「グローカル化」」の研究である。 2022年度は、フェーズIにあたり、生産地研究が中心となるが、研究初年度であるため、まず全体の研究準備、資料収集を行った。そして、フェーズIの生産地研究として、長崎県五島の八本木窯を調査対象地として設定して、発掘調査を行った。窯跡の位置を把握するための試掘調査である。また、フェーズIIの消費地研究に向けて、調査地を選定するためのフィールド調査を行った。メキシコ合衆国のメキシコシティ、プエブラ、カルパンの各都市・村の踏査を行い、さらにスペイン調査時に現地博物館等での資料収集も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究のフェーズIにあたる生産地研究における窯跡の発掘調査は順調に行うことができた。2022年度は八本木窯の発掘調査を行った。今後の調査においても必要となる発掘調査の行政的手続きの確認、土地所有者の把握、調査協力者等の確保、調査体制の確立や環境の整備を夏までに行うことができ、秋に実際の発掘調査を行った。 八本木窯については江戸時代後期の絵図が残っているものの、考古学的な調査や研究が行われたことがなく、位置や範囲など詳細が不明であった。今年度の発掘調査によって、登り窯の奥壁、側壁、床境(砂床と火床の境界)、砂床(製品を焼成する空間)、火床(燃料を燃焼させる空間)の位置、焼成室の横幅や奥行などの規模が判明した。フェーズIの生産地研究は概ね順調に進んでいる。 また、フェーズIIの消費地研究に向けた情報収集のため、メキシコ国内のメキシコシティ、プエブラ、カルパンの踏査等の調査を行っている。メキシコシティのテンプロ・マヨール博物館、メキシコ市立博物館、フランツ・マイヤー博物館、プエブラのサン・ペドロ芸術博物館、プエブラ地方博物館などの博物館の所蔵品・展示品の調査を行うことができた。そして、発掘調査候補地のカルパンのサン・アンドレス修道院の建物内外の踏査を行った。それから、国立人類学歴史学研究所のテンプロ・マヨール博物館への調査研究協力依頼の手続きを進めている。さらにスペインの博物館で関連する資料の収集も行うことができた。よって、フェーズIIの消費地研究の準備も概ね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度もフェーズIに相当し、生産地研究が中心となるが、併せてフェーズIIの消費地研究の準備も進めていく。 フェーズIの生産地研究は、2022年度に引き続き、長崎県五島の八本木窯の発掘調査を行う予定である。前年度と同様に行政的な手続きを踏み、夏から秋にかけて着手できるようにする。前年度の発掘調査で登り窯の位置と焼成室の規模が明らかになっているため、2023年度は登り窯の方向を明らかにする。可能であれば範囲まで推定し、登り窯に付帯する工房や水碓小屋、素焼き窯などの遺構の位置の推定を行いたい。そのために2022年度に試掘して検出された窯壁の延長線上を試掘し、生産地の生産空間の復元の材料を集めていきたい。それから八本木窯や同じ島内にある田ノ江窯などの測量の準備も進めておきたい。さらに八本木窯や田ノ江窯など島嶼部の登り窯の特質を知るために、肥前窯業圏の中心的窯場である有田や波佐見の登り窯の資料整理、同じく肥前窯業圏の周縁に位置する窯場との比較検討を行う計画である。 フェーズIIの消費地研究については、国立人類学歴史学研究所のテンプロ・マヨール博物館への調査研究協力依頼を進めるとともに、調査計画を作成する。必要に応じて中南米の現地調査に出かける予定である。一方、これまで集積してきた中南米各都市の陶磁器の出土情報を精査、整理し、2024年度以降の現地調査に備える計画である。 そして、以上の研究の途中経過や中間的な成果について、随時、公表していくつもりである。
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Research Products
(7 results)